イスラーム(イスラム教)に関すること
平成27年4月号掲載二人の日本人も犠牲になった過激派組織IS(イスラミック・ステイツ)による数々の非道な行動によって、イスラーム(イスラム教)と非イスラームとの間の溝が深刻化しています。
本稿先月号で紹介しましたように、私は9・11米国同時多発テロから4カ月後に、シリアのイスラーム最高指導者(グランド・ムフティ)であったアフマド・クフタロ師からの平和のメッセージを、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ二世に届ける“橋渡し役”を、元学校法人上智学院理事長のヨセフ・ピタウ大司教を通じてつとめさせていただきました。先日、そもそもの切っ掛けとなった平成2年(1990)11月に神道山において本教が主催した「神道国際研究会」の資料を久々に読み返したところ、クフタロ師から教主様への丁重な御礼状が見つかりました。厳格なイスラーム国家であり、現在の騒動の中心地域ともいえるシリアの当時の最高聖職者からの手紙の日本語訳を、まず紹介させていただきます。亡きクフタロ師の遺志が平和的解決への礎になることを切に願うものです。
「親愛なる兄弟 宗晴様、
ようやく帰国し、何はさておき貴方様と令息の宗道様との最も美しい思い出を大切にしながら、ご挨拶を申し上げます。神道国際研究会は大成功で、参加者全員、皆様方とたくさん幸せな時を過ごせました。
皆様方のすべてについて、また、人類とその環境保護のための素晴らしいご活動について、こちらで私たちの同朋に話しています。イスラームは唯一の神アラーを信じますが、私たちも周りにあるものすべてはその神の創造の力と愛と慈悲の顕現であり黒住教はイスラームと共通するところが多いと信じています。私たちも、人の清らかさや人の住む環境の美しさに心を配っています。
私たちが共に協力して努力すれば、間違いなく苦しむ人たちに何かを行うことができます。その最初のステップは、貴方が私たちに貴方様方と知り合う機会を与えて下さった時に成されています。貴方様方に、今後何度もお会いできることを願っています。
アラー、ゴッド、大御神の御恵みが我々すべてにもたらされますように。
貴方様の兄弟
1990年11月27日
シリア国 ダマスカス
アフマド・クフタロ」。
文末の「アラー、ゴッド、大御神の御恵みが我々すべてにもたらされますように」の祈りが、キリスト教、仏教とともに世界三大宗教と称されるイスラームが、本来は決して他を認めない偏狭で排他的な宗教ではないことを明示しています。私たち非イスラームの人々は、超原理主義者の過激な行動をもってイスラーム全体に対する誤解と偏見を助長されないように、まずは最大限の配慮をすべきと信じます。
過激派組織IS(当初は“イスラム国”と表記)による日本人拘束事件の最中、私にとって初めての国際舞台であった「グローバル・フォーラム」(世界を代表する政治家・宗教家・科学者・ジャーナリストによる地球の将来を見据えた国際会議で、オックスフォード、モスクワ、京都で開催)を主催して、「神道国際研究会」の海外出席者を紹介して下さった米国在住の松村昭雄氏からコメントを求められた私は、以下のメールを英文で伝えました。
「私は、イスラームを信じる人々が、このようなテロ行為はまったく受け入れ難く、どの宗教に照らし合わせても正しくないと、もっと声を大にして発言しなければならないと思っています。それが非常に困難なことは十分承知していますが、イスラーム側の声が小さいままだと、イスラーム社会と非イスラーム社会の溝がさらに大きくなりかねないと思います。イスラームについて馴染みの薄い日本などでは、誤解によってイスラームに対する否定的なイメージや恐怖心がさらに高まりかねません。数日前に入ってきた、“イスラム国”による日本人ジャーナリスト拘束のニュースは、この否定的なイメージを広めるだけかもしれません。
このようなことを考えていた時に、貴方からのメールを受け取りました。思い返せば、モスクワ・グローバル・フォーラムは実に意義深い行事でした。冷戦時代の終わりに著名な政治家、宗教者、科学者、ジャーナリストがモスクワのクレムリンに集結して、世界的な問題、特に環境問題について討議しました。その時、参加者全員が宇宙船地球号の乗組員として、東西の違いや対立を克服する努力をしながら、共に良い方向を求めて限界を越えようとしていた姿を見て、私も何か楽観的な雰囲気を感じました。
貴方が以前に岡山に来られた時、これからは『個人』がキーワードになると言われたのを覚えています。言われた通り、ここ数年で『個人』の力が強くなっていくのを目の当たりにしてきました。“イスラム国”はソーシャルメディアを使って、世界中の『個人』の若者にアピールしていますが、心配を禁じ得ません。冷戦時代の主要関心事は、二つの政治体制、あるいは政治イデオロギーの対立でした。グローバル・フォーラムで私たちはより明るい未来のために、この対立を克服し、一緒に仕事をしようとしましたが、今では状況があまりにも複雑になりすぎて、問題解決の突破口や提案といったものがすぐには見出せそうもありません。
冒頭、イスラーム側の方が世界に向けてもっと声を上げなければならないと書きました。イスラーム側は、特に非イスラーム圏の国において、そうする必要があるでしょうし、敢えてそうしなければならないと思うのです。自分たちはテロに完全に反対であり、イスラームは本来平和的な宗教だと言わなければなりません。象徴的な事実として、パリのテロ攻撃で撃たれて亡くなった二人の警官の一人はイスラーム信者でした。このことも広く報道されるべきです。テロを引き起こしているのは、イスラームと非イスラームの対立ではないのです。両方の側がテロに対する連帯を求めて溝を埋める努力をもっとすべきだと思います。このような時ですから、私は個人的にイスラームの友人たちとの縁を大切にして、その繋がりをもっと強めていこうと思います。
私としては、貴方が長年培われた独自の個人的ネットワークを駆使されるなどの影響力を心から期待しています」。
このメッセージは、松村氏の広範な人脈を通して、またたく内に世界を駆け巡りました。昨年11月10日の「立教二百年奉告の集い」に出席いただいた同志社大学一神教学際研究センター長の小原克博教授も私のメッセージを受け取った一人で、「英文メッセージ、拝見いたしました。イスラームを取り巻く問題を的確に指摘されており、大変心強く感じた次第です。今、エジプトに出張中なのですが、ISにエジプト人21人が殺害された直後なので、こちらでもただならぬ関心の高まりを感じます。テロ問題はグローバルな課題ではありますが、日本は他国にできない独自の道を行くべきであると考えています。いずれ直接会ってお話ししましょう」と感想を送って下さいました。
また、宗教専門紙「中外日報」から取材を受けた私のコメントが、大きな特集記事の結論として取り上げられました。
「宗教間対話の推進に努めてきた黒住副教主は『犠牲となった日本人ジャーナリストの解放交渉に際して重要な存在だったヨルダン軍パイロットはイスラーム信者だった。仏誌襲撃テロの犠牲になった警察官の一人もイスラーム信者。テロを引き起こしているのは、ムスリムと非ムスリムの対立ではない。ただ、“反イスラーム感”は残念ながら増加していると言わざるを得ない。イスラームを信仰する人たちにとって“同朋”を批判することはアラー批判に等しいほど困難なことと十分承知の上で、アラーの名の下に行われるテロ行為とその首謀集団を、世界のイスラーム指導者がもっと明確に厳しく断罪する姿勢を世界に示してほしい』と願う」。
この4月9日~10日には、世界ムスリム連盟と(公財)世界宗教者平和会議日本委員会の主催で「イスラームと日本の宗教者との対話会議」が外務省の後援を得て開催され、私は「セッション1.宗教と平和」の発言者の一人を仰せつかっています。日本の宗教者としてのつとめを、微力ながら果たしてまいりたいと思っています。
《教祖宗忠神詠》
誠ほど世にありがたきものはなし
誠ひとつで四海兄弟 (御文141号)
神といい仏というも天つちの
誠の中にすめるいきもの(御歌99号)