基調講演 「被災地で学生たちと学んだこと」

平成26年3月号掲載

 副教主様は、岡山経済同友会教育問題委員会副委員長をおつとめになっていて、そのお立場からも東日本大震災の復興支援活動に“奉仕の誠”を捧(ささ)げられています。

 昨年の11月23日には、山陽新聞社「さん太ホール」を会場に、岡山経済同友会の教育フォーラム「震災復興と岡山のボランティア学生たち」(本誌1月号参照)が開催され、副教主様が基調講演とパネリストをつとめられました。その基調講演の要旨が岡山経済同友会機関誌「おかやま経済同友」に掲載されましたので、今号の本欄に転載させていただきます。(編集部)


三者のトライアングル

 一昨年から三年間、団長をつとめさせていただいています。被災地へのボランティア派遣を行うようになったきっかけは、「震災を実感することができない」という一部の学生さんの声に、同友会が危機感を覚えたことからです。

 産学連携の大学コンソーシアム岡山に、学生の募集に協力していただいています。また、岩手県上閉伊郡大槌町で健康サポートセンターを開設している国際医療ボランティアのAMDA(アムダ)に、現地が望む内容のご提案をいただき、活動にいかしています。ボランティアは、受ける側のニーズを聞いて、実行することが望ましいからです。

 大学コンソーシアム岡山、AMDA、そしてわれわれ三者のトライアングルなしでは、岡山の学生ボランティア派遣は実現しませんでした。今後もこの関係を大切にしていきたいと思います。


手探りの学生による復興支援

 大震災のあった2011年の8月24~28日の期間、39人(男子25人、女子14人、11大学、1専門学校)が参加しました。震災後半年で、ボランティアとして何ができるのか、手探りの状況でした。

 大槌町社会福祉協議会のボランティアセンターの指示に従い、菜の花が咲き誇る地域に再生するという「菜の花プロジェクト」に参加しました。参加した学生からもっと踏み込んだ支援をしたいという希望がありました。そこで翌日、多数の遺体が流れ着いたためその処理に時間がかかり夏草が生い茂った海岸で、草を刈り、ヘドロ除去をするなど過酷な体験をしました。愛蔵の本や写真、日用品が次々に発見され、もう一度黙とうを捧げました。被災して間がないにも関わらず、被災地の方々のご厚意で、ミニホームステイと町内視察にも行かせていただきました。


地元のニーズにこたえた2年目

 2年目は、昨年8月22~26日の日程で36人(男子13人、女子23人)の学生と参りました。この期は地元の旧大槌中学校での活動でした。校舎は一階部分が津波で被災し、解体が決まっていました。地元の人皆が通い、思い出深い校舎でしたが、被災直後から遺体安置所になっていました。

 重要な資料等はすでに回収済みでしたが、それでもなお賞状など思い出の品や伝統的な民具(貴重な地元の漁具など)が残されたままになっていたのは、思い出深い校舎が遺体安置所になり、震災の悲惨さを思い出させる場所として、足を踏み入れがたくなっていたからです。

 そこで、われわれは、地元の人に代わり、校舎内の品々の整理と清掃を任されました。また、地元の子どもたちとの焼き肉交流会もしました。外食店が復旧していない状況で、仮設住宅での近隣への遠慮から、長く、食べられなかったそうです。子どもが望む、当たり前の楽しみを提供できたことは、良かったと思います。


コミュニティづくりに貢献

 今年は8月24~28日の日程で40人(男子24人、女子16人)が参りました。宮城県石巻市雄勝町にまず入りボランティア活動を行いました。翌日、177キロ先の大槌町に向けバスで4時間かけて南三陸町、気仙沼市、岩手県陸前高田市、大船渡市、釜石市を巡りました。道中、要所要所で慰霊の祈りを捧げました。

 今回の活動は、これまでの大槌町に加え、初めて雄勝町への支援に行きました。

 雄勝町は牡鹿(おしか)半島東部に位置し、震源地に最も近いところで津波被害に最も早く遭った地域です。「津波が押し寄せた」と言うより、揺れとともに「下から海が盛り上がってきた」といった状況だったそうで、避難する余裕もなかったことが察せられます。

 雄勝町は過疎と超高齢化、後継者不足が進んでいる地域でしたが、今回の震災で一気に課題が露呈しました。これは、訪ねたいずれの被災地にも共通する厳しい現実です。

 雄勝町ではNGOの呼び掛けで地元の旧桑浜小学校を再興するプロジェクトが始まっていました。校舎を地域の人が祭りなどで集まる場所(コミュニティ・スペース)として活用しようというもので、われわれはこの活動の一部に参加しました。

 ボランティアでは男子学生は土砂撤去、雑木林の下草刈りなどに明け暮れました。高台で被害が少なかったためなのか、他府県からの学生ボランティア参加は初めてだったようで、歓待されました。女子学生は砂浜の清掃などもしました。


被災地以外も支援が必要

翌日の大槌町では、今年は敢(あ)えて、被災地以外の山間部の草取りをいたしました。大槌町は、釜石市の近くで、リアス式海岸南部に位置し、被災地 はもちろん海岸沿いです。では、「なぜ、被災地以外」と疑問に感じられるでしょう。

これには、訳があります。山間部の人たちは、被災直後から、自らの食料、衣料などの物資を被災地の人に提供し続けてきました。ところが、山間部への新たな支援がある訳でもなく思いもかけず、地域は荒廃しかかっていたのです。こうした事情をよく知るAMDAスタッフの提案でコミュニティ・センター用地の整備・清掃作業が実現しました。

降りしきる雨の中、雑草・雑木、土砂の搬出・撤去など学生たちは奮闘しました。単純な作業ですが、コミュニティ・スペースでの作業はどうしても後回しになっていたそうです。

 現地が抱える超高齢化や過疎化の社会問題は予想以上に深刻です。コミュニティ・スペースが整うことで、現地の人たちのアイデンティティーが高まります。

 ボランティアに参加した学生は、芸術や公務員など進路はまちまちですが「自分の専門なら、何ができるだろう」と考えるなど、このプロジェクトを通して一層、自らの進路に幅を持たせることができたと聞き、成果を実感しています。


大震災を忘れず「備災」へ生かせ

 私たちはこの大震災を決して忘れてはなりません。交流を続け学んだことを防災・減災にいかすことが重要です。最近はこれに加え「備災(びさい:災害に備える)」がクローズアップされています。

 震災直後から、宗教のいかんに関わらず、多くの人が祈りました。被災地の復興を祈り、今後起こりうる災害での被害をできるだけ減らすことを皆が祈っています。

 こうした思いの表れが今回のボランティアだったと思います。泉代表幹事の冒頭の言にもありましたように、岡山経済同友会は復興支援活動を今後も継続させていく所存です。