トルコでの出会いと語らい

平成21年4月号掲載

 本誌別掲の通り、私が事務局長として世話役をつとめているRNN人道援助宗教NGOネットワークの友人たちと、去る2月14日から1週間、トルコ共和国を初めて訪問させていただきました。
 ボランティアの心で宗教協力を実践することを目的としたRNNでは、毎月の定例会(先月で141回開催)での話し合いをもとに、さまざまな活動を行っていますが、今回のトルコ訪問は、岡山大学院生のトルコ人医師でイスラム教徒であるカディール・デミルジャン氏の提案を受けて実施したスタディーツアー(学習旅行)でした。9・11テロ直後のイスラム勉強会がきっかけでRNNの仲間に加わった氏が、母国の知人に働き掛けて、イスラム指導者や宗教NGOの代表、また国会議員やマスコミ関係者など、多岐にわたる人々との面会を計画してくれたおかげで、RNNならではの実に得難い体験をすることができました。
 “旅の道づれ”は、金光教平和活動センター専務理事の西村美智雄師、天台宗本性院副住職の永宗幸信師、宗教専門紙中外日報の河合清治記者、案内役として岡山トルコ文化センター理事長のデミルジャン氏、そして吉備楽楽長令息の小野彰盛氏と私の6名でした。本稿では、首都アンカラと最大の都市イスタンブールで出会った人々との語らいの中で、印象に残った数々を紹介したいと思います。
 アンカラでは、まず国会議事堂でパクディル副議長も同席したトルコ日本親善協会主催による昼食会に招かれました。国会開催中にもかかわらず駆けつけて下さった副議長からは、「日本は、私たちトルコ人にとって、とても近しく感じられる大切な国」との歓迎の挨拶(あいさつ)をいただきました。実は、来年の2010年がトルコにおける日本年で、トルコ国内で日本ブームが盛り上がりつつある絶好のタイミングでの訪問であることを、そのとき初めて知りました。口々に歓迎の言葉を述べて下さる国会議員各位への返礼として、私は、予(あらかじ)め デミルジャン氏に翻訳してもらって道中に繰り返し発音の練習をしてきたお礼の挨拶文をトルコ語で読み上げました。
 その日の夕食会は、将来の指導者養成に重きを置いた教育を進めている高等学校を訪れ、子弟をこの学校に通わせている大学教授や宗教専門家や実業家と、かなり突っ込んだ内容の話し合いができました。
 特に、国の宗教行政担当官僚であるアーキフ氏が、私に問い掛けた質問は「朝日を拝むことが大切な祈りとのことですが、太陽が信仰の対象ですか?太陽を拝むことの意味を説明していただきたい」という、私たちの信仰の基本を語らせていただくことになった内容でした。
 「幸いにして、日本は地理的な条件に恵まれ、穏やかな気候風土であることが特色で、恵みをもたらす大地や水や風や木々など、すべての自然のはたらきの中に神の存在を認めてきました。そして、それら一切の源(みなもと)として、古来わが国が太陽を神として尊崇してきたのは事実です。ただ、とりわけ私たち黒住教では、太陽そのものを神と称(たた)えるというよりも、闇夜(やみよ)から朝をもたらす日の出を通して感じる、いのちの親神に対する感謝の信仰です。世界各地には、あまりにも強烈すぎる太陽の力を恐れて、闇夜を照らす月や星が人々に安らぎをもたらす信仰の対象であったという伝統があることも私は知っています。大いなる尊きはたらきに純粋素直に頭(こうべ)を垂れる対象が、私たちにあっては太陽、とりわけ昇る朝日なのです」
 幸いにして、偉大なるアラーの尊き存在が世の中のすべてをつかさどっていると信じるイスラム教徒にも、十分納得のできる回答であったようでした。私の発言の後、同行の小野君が吉備楽を演奏して、神道の神々しさを伝えてくれたのも効果絶大でした。
 トルコ最大の都市イスタンブールでは、盛り上がりつつある日本ブームを実感した出会いと出来事が続きました。迎えて下さった現地スタッフから「ぜひ正装で…」と要請されて、私は羽織・袴(はかま)、天台宗の永宗師は袈 裟(けさ)、金光教の西村師は装束に身を正してモスクでの礼拝や要人との会見に臨み、その模様は同行取材した大手テレビ局が夜の全国放送でたびたび伝えました。満場のモスクにおいてさえ、誰(だれ)もが“異教徒”のわれわれを温かく迎えてくれたことは、驚きであり感動でした。敬意と親愛の誠の心で接することの大切さと、閉鎖的で排他的な宗教だと思いがちな私たちのイスラムに対する誤解と偏見に対する反省を強く感じました。正装姿の異なる諸宗教者が一神教の国で歓迎れたことは、RNNなればこその一つの実績になったと思っています。
 最後に、大手新聞社「ザマン」のビリチ社長からいただいた一言を紹介いたします。
 「素晴らしい歴史と伝統のある日本人が、なぜ今のような物質中心主義者になってしまったのか不思議です。今もアメリカの戦略下にあるのではないかとさえ思います。いずれにしても、あれだけ恵まれている日本で年間3万人もの自殺者がいるということは、何か大切なものを失っているとしか思えません。貴方(あなた)たち宗教者の使命は重大だと考えます」
 実に多くのことを学んだ今回のトルコ訪問でした。