相次ぐ国際的な大役を仰せつかって
平成20年6月号掲載
早いもので、私が英国国立ロンドン大学で2年間の貴重な体験を積ませていただいて教団に戻ってから、今年でちょうど20年になります。まるでこの節目の年に合わせたかのように、ここのところ国際的な大役を仰せつかることが相次いでいます。
いずれも急な依頼を受けての対応ですので、予(あらかじ)め報告ができなかったのですが、去る4月28日に日本を発(た)って、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた国際会議に出席してきました。
国連では「NPT(核不拡散条約)運用検討会議」という核兵器の拡散を防止するための軍縮会議が5年ごとに、そして準備会議が毎年開かれており、私が出席したのは2010年の本会議に向けた準備会議に関連したフォーラム(公開討論会)でした。各国政府代表による国連会議に民間NGOとして傍聴参加して、国連内で開かれるNGO主催による関連会議の議論を本会議に反映させるという、官と民の“真剣勝負”に居合わすだけでも貴重な体験でしたが、本会議にも大きな影響力を持つ世界キリスト教教会協議会(WCC)主催のフォーラムに、唯一の被爆国からの参加は欠かせないということで、日本の宗教者を代表して出席させていただきました。
そもそも今回の件は、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会が発言者派遣の要請を受けたもので、今まで対応されていた元天台宗宗務総長の杉谷義純師に代わって私が任を預かることになった次第です。
WCRP日本委員会の事務局とともに作成した発言内容は、一昨年夏に行われた「第8回WCRP世界大会」で合意された「共有される安全保障」という「すべてのいのちを守るための、より相互的・包括的な安全保障のための提言」の解説と、今年7月に開かれる「平和のために提言する世界宗教者会議~G8北海道・洞爺湖サミットに向けて~」(後述します)の趣旨を中心とした、各国の諸宗教協力による平和への取り組みを紹介するものでした。しかし、事前の打ち合わせの際に「日本の宗教者ならではの“知恵(教え)”を伺いたい」という要請がありましたので、「人は自分の力で生きているのではなく、“大いなるはたらき”によって生かされて生きていると、私たちは信じている。与えられた“いのち”を、『おかげさま』の感謝の心で活(い)かすこと、さらに他者の幸せと繁栄のために尽くすことは人のつとめ。そういう観点からも、生命の根源からすべてを破壊する核兵器の存在は認められるものではない」と結論づけた私の発言は、おかげさまで大きな拍手をいただくことになりました。
その他の詳しい発言内容は省(はぶ)きますが、パネリストとして出席したフォーラム以外の関連会議でもオブザーバーとして発言を求められた場面もあり、任された役を全うできたことを有り難く思っています。
ところで、先に触れたG8北海道・洞爺湖サミットに向けた会議も、今年の大きな役の1つです。毎年開かれるG8サミットですが、一昨年のロシア・サミットでプーチン大統領(当時)の了解を得て初めて諸宗教者からの提言が本会議に反映される前例ができ、昨年のドイツ・サミットでも宗教者からの提言書をメルケル首相が受け取りました。こうした流れを受けて今年のサミットに向けた宗教者による会議が札幌で開かれるのですが、私は、この会議の実行委員兼起草委員、そしてパネリストとして参加することになっています。
実は、去る4月2日に国会議事堂内の会議室で高村外相との勉強会が開かれ、私も委員の1人として出席したのですが、質疑応答の時間に私はあえて「チベット問題」について言及しました。「サミットまでにこの問題が沈静化するとは思えませんが、『人権問題』としてサミットでチベットに関する話題が出る可能性はありますか?」という私の質問に対して、外相は「隣国との関係は、どこも微妙な問題を孕(はら)んでいる場合が多いものですが、ことに日中関係は、まだ“大人の付き合い”が国民レベルでできかねる段階だと理解しています。ややもすれば感情論になってしまい、マスコミによる影響も非常に大きい。政治家レベルでは、今までも『もっと透明性をもって…とか、ダライ・ラマさんと話し合うべき…』と何度も発言していますし、これからも繰り返し主張していくつもりです。『もっと強い発言を』と要望されることも多いのですが、国としての発言は慎重にならざるを得ないのが実情です。サミットで話題に上がるかどうかは、今の時点で回答はできません」と、まことに丁寧に答えていただきました。あえて微妙な問題に触れたのは、先月号の本稿で紹介したダライ・ラマ法王への個人的な思いもさることながら、「宗教が深く関わる国際的な問題の渦中にあって、日本の宗教者がわが国の外務大臣と面会しているにもかかわらず一切そのことに話題が及ばないようなことであってはならない…」という使命感のような思い1つからでした。
最後に、ジュネーブにいるときに要請があり、あまりにも急なことながら「これは逃げるわけにはいかないこと…」と、帰国後すぐに教主様と相談して引き受けることになった会議出席について報告させていただきます。
来る6月3日から3日間、オランダのアムステルダムで「アジア欧州会合(ASEM)異なる信仰間の対話」という国際会議が開かれます。該当各国の閣僚(外務大臣、宗教大臣等)、宗教指導者、専門家が出席する公(おおやけ)の会議で今回が第4回だそうですが、今まで日本からは外務省関係者のみが出席してきたとのことです。宗教関係者に出席要請を出しにくい日本の国内事情も分からなくもありませんが、海外出席者から「宗教間対話のリーダーシップ的な存在である日本から宗教者の出席がないのはいけない…」という発言があったようで、会議直前になって外務省担当者からWCRP日本委員会事務局に参加要請があったそうです。各国からの出席者は原則4名までで、「宗教者1名を是非…」という依頼文を同行のWCRP事務局員からジュネーブで見せられ、私が協力を依頼されたのでした。
これは正直言って一大事ですが、本教への信頼あればこそのご指名であり、過去3回日本からの出席は“お役人”だけというのも対外的に失礼な話ですので、“当たって砕けろ!”のつもりで臨んできます。ちょうど、本誌がお道づれの皆様のお手元に届いた頃が“本番中”だと思いますので、実力以上の働きができるように成功を祈っていただければ幸いに存じます。
ロンドンから帰って20年。日本独自の神道の伝統を受け継ぐ本教の教主後継者が海外留学などさせていただいて「何の役に立てるのだろうか…」と思うこともありましたが、節目の年に合わせたかのような大役を与えられ、すべてご神慮と改めて感じ入っています。オランダから帰った翌日には、「ありがとうございます推進・祈りの集い」で福岡県の柳川教会所を15年ぶりに参拝させていただくことになっており、今からとても楽しみにしています。
「1人を大切に1人でも多く」の“奉仕のスローガン”を旨として、今後もつとめてまいりたいと思っています。
