天地の中の誠を知りぬれば
         有無も生死も何かいとわん(伝御神詠)

 今月は、教祖宗忠神の次女照子様が、たびたびお話しになっていたという名高い御逸話「ハンセン病(らい病)患者への御まじない」を学ばせていただきます。

 ある夏の日、当時不治の病と恐れられていたハンセン病を患った男が流れ流れて岡山にやってきました。遠く故郷を離れ、ひとり行く先もないさすらいの旅の末、顔もひどく傷んで、苦痛にもがきながら物を乞う様は世にも哀れで、同情したある人が声を掛けました。

 「ここから西へ一里(約4キロ)ばかりの所に黒住様という生き神様がおられる。そこでおまじないを受けると、どんな難病も治る。ぜひ訪ねるように…」

 人を信じることなど到底できない絶望の渕にあった男でしたが、教えてくれた人の親切に感じるものがあり、またどこへ行くというあてもない身ですから、不自由で痛む足を引きずって宗忠神の御宅を訪れました。

 幸いご在宅であった宗忠神は、病に侵された男の姿をご覧になるなり、「よくぞお出でになりました!さあ、お上がりなさい!おまじないをいたしましょう!」と言って、御神前の部屋に通して、お祓いを上げてから丹念に直禁厭(直接の祈り込み)をつとめられました。

 暑い夏の日でしたから、宗忠神は汗びっしょりになってお取り次ぎをし、無意識のうちに痛んだ患部に触れた手でご自身の顔の汗を拭われました。なんと患者の膿血が顔に付いたまま、直禁厭を続けられたのです。

 衰えた視力でしたが、眼に映った信じ難い光景に、男は驚きと感動に打ち震え、声を上げて泣き崩れました。どこへ行っても恐れられ嫌われてきた自分を、これほどまで大きく温かく迎え入れて、一心に祈って下さる宗忠神を、心の底から尊く有り難く感じ入り、身の痛みも心の悩みも忘れてお取り次ぎを受けました。

 御祈念の後、大変心配なさった奥様に対して、「病気を怖がっていてはおかげにはならぬ。幸い、私は顔に膿血が付いたことさえ気付かず、『何とか助けてやりたい』の一念で御祈念することができた。あの男は、きっとおかげをいただくぞ!」と仰しゃった通り、不治の病・致死の病に苦しみ抜いた男は、日ならずして完治のおかげを受けたのでした。