おのれに勝ちて神と一体
かくなれば今よりのちは天つちの中はわが身のうちとなるらん(御歌94号)
平成22年7月号掲載
「小串(こぐし)沖ご難船」という、教祖様の尊い御逸話(ごいつわ)があります。
弘化3年(1846)3月8日(旧暦)、小豆島方面に向かう教祖様がお乗りになった船が、児島郡小串(現在・岡山市小串)の沖でにわかに吹き荒れた突風と波のうねりに巻き込まれて、転覆の危機に見舞われました。前後して航行中の他船からは、すでに何人もの乗客が海に放り出されて救いを求めている非常事態でした。
ついに教祖様が乗った船も制御し難い状態になり、船頭が「この船もいよいよ転覆します。どうか、ご覚悟下さい」と半狂乱の大声を上げた時、大騒乱の中、ひとり静かに目を閉じてどっしりと座っていた教祖様が、やおら懐紙と矢立てを取り出して、次の一首の御歌をしたためて、大波押し寄せる海中に投ぜられました。
波風をいかで鎮めん海津神(わだつかみ)天つ日を知る人の乗りしに
その途端、今の今まで荒れ狂っていた波風がたちどころに静まり、教祖様が乗っておられた船はもちろん、波間におぼれかかっていた人々も無事に助けられたのでした。
いつも笑顔でおおらかで丸く穏やかな教祖様ですが、海をつかさどる神をも叱(しか)りつけるほどのご気迫から、「天命直授(てんめいじきじゅ)」という天照大御神から直接に授かった御命を、どれほどまでに重く自覚なさっておられたかを学ばせていただけます。身の引き締まる思いです。
月は入り日の今いずるあけぼのに我こそ道のはじめなりけれ (御歌133号)
の御神詠も然(しか)りです。
今月の御教えに示された「おのれに勝ちて神と一体」、なんと崇高な御心でありましょう…。教祖宗忠神への信仰を、一層揺るぎないものにさせていただく黒住教道づれでありたいと、心新たにするものです。