ここも憂(う)しまた行くさきも憂かりけり おなじ月日におなじ身なれば(伝御神詠)
平成22年6月号掲載 悩み多き現代人に、今も「心直し」の大切を御教え下さる教祖様の御逸話(ごいつわ)を二題学ばせていただきましょう。
かつての隆盛を失って経営不振に陥っていた炭屋の主人が大阪への夜逃げを思い立ち、教祖様に相談に上がった時のことです。「大阪へ行って、何をなさるのですか?」との問いに、「店があのような状態ですから、いっそ住む所でも変えてみたらと思いまして…」と答える主人に、教祖様が示された即吟の御歌が今月の御教えです。
教祖様は「今あなたが行こうとする先も同じ月日が照らしていらっしゃる。同じあなたでは全く何も変わりません。それよりも思い切って、生活に必要な物だけを残して不要な物を全部売ってしまい、それで得たお金で、あなた自身が炭を山に買い出しに行き、あなた自身が車を引いて炭を売って歩きなさい」とご指導になりました。主人は仰せに従い、家財一切売り払い、それを元手に単身商売を始めました。それまで、手代や番頭がこっそり懐に入れていた分だけ炭も安くなり、また、大旦那(おおだんな)が車を引いて商いを始めたと評判になり、皆感心して注文が相次ぐようになって、やがて一人では手に負えなくなって人を雇い、3年もたたぬうちに元の繁盛を取り戻したのでした。
この炭屋の主人のように、難問に思い悩む人に対してだけでなく、教祖様は「善人の罪をつくるな」と、普段からの「心直し」の大切を説かれました。
深い悩みを抱えた女性が訪ねてきた時、教祖様は「表に出て、なるべく大きな石を持ってくるように…」と言い、同行して来た女性には紙袋を渡して袋に入るだけの小石を沢山(たくさん)入れてくるように言われました。ご指示通りに戻って来た2人の女性に対して、教祖様は「それでは、元あった通り、向きも元のまま戻していらっしゃい」と仰せになりました。大きな石はどこにあったか、しかもどのようにあったかまでもすぐに分かりますが、紙袋いっぱいの小石が元通りに戻せるはずはありません。「取り返しのつかないような大きな罪でも、心を入れ替えることで償(つぐな)うことはできます。しかし、平素、気付かないうちに犯している小さな罪は償うことはできません。善人の罪こそ、普段から最も気を付けなければならないことです」と優しくお諭しになりました。