ともどもに活かす道こそあらわれて あら有り難や面白の世や (赤木忠春高弟詠)

平成20年9月号掲載

 対話を通して人が意思疎通(コミュニケーション)を図るときの座り方には、「対面法」・「九十度法(または百二十度法)」・「平衡法」という三通りがあるのだそうです。
 正対して座る「対面法」は、お互いが常に相手と向き合っている緊張関係で、上司が部下に指導・命令するような場合には効果的であるものの、両者の見ている方向が全く異なっているため共通点を分かち合うには不向き。「九十度法(または百二十度法)」は、「ハの字」もしくはテーブルやカウンターのコーナーに位置する座り方で、お互いが共通のものを見ることができるとともに、相手にも目を遣(や)ることができ、両者がリラックスできる方法。隣に座る「平衡法」は、お互いが最も親しくなれる座り方で、共通のものを見る上では有効だが、共通するものがない場合、両者の意見は限りなく平行線を辿(たど)りやすい。
 これはカウンセリングやコーチングの基礎知識ということですが、対話によって人と人とが心を通わすとき、私たち素人も大いに参考にすべきではないかと思います。

 ただ、専門家(カウンセラーとか指導員)とクライアント(依頼人)という特殊な間柄ではない一般的な人間関係の場合、確かに対話はとても大切な意思疎通の手段ではありますが、それ以上にお互いが心から分かり合える方法を私たちは知っています。それは「ともに行動する」ことです。
「協働」という新たな言葉の登場は、「協力しなくても働ける」時代なればこそではないかと思いますが、各々(おのおの)の個性や得意分野を活(い)かした共同作業は、その成果が顕著であるということもさることながら、過程において相互理解が深められ、信頼の絆(きずな)が生まれ、感動を分かち合えるという、単独では決して味わえない喜びをもたらします。“個化”の進む現代社会での「協力」とか「助け合い」の実践は、「社会のため」や「人のため」にとどまらず、実は“孤化”防止という「自分のため」にも必要不可欠な行為でもあることに、現代人は気づいておかなければならないのではないかと思うのです。