奉祈 世界大和・万民和楽
 ─第三回東京平和円卓会議報告を通して─
教主 黒住宗道

 第二次世界大戦終結八十年、昭和百年、そして日露戦争終結百二十年の令和七年(二〇二五)八月に、世界の大和と万民の和楽を、心を新たにして切に願い祈ります。

 とりわけ黒住教教徒・信徒(お道づれ)各位には、日露戦争が終結した明治三十八年(一九〇五)にお誕生になり「宗和」と命名された五代教主様のお名前に込められた「和」の一字をあらためて深く心に刻んで、ともに平和を祈願していただきたいと思います。

 私が「奉祈 世界大和・万民和楽」という題名で「道ごころ」を執筆するのは二度目で、前回はロシアによるウクライナ侵攻直後に「ウクライナ戦禍の速やかなる終結を希って」と副題を添えて発表した令和四年(二〇二二)四月号でした。

 以後、残念ながら戦禍は収まるどころか、中東をはじめとした緊張状態にあった諸国・諸地域に飛び火するように広がり、あろうことか核兵器の現実使用さえ危ぶまれる昨今です。

 「祈ることしかできない…」が、多くの人々の正直な気持ちですが、この度第三回を数えた「東京平和円卓会議」に出席して、私は日本人宗教者の世界平和への貢献の可能性と申しましょうか有効性を今まで以上に強く感じました。

 去る七月一日から三日まで、世界宗教者平和会議(WCRP)国際委員会・日本委員会共同主催による「第三回東京平和円卓会議」が東京都内で開催され、私は七月の開運祭をつとめ終えてから上京して二日目と三日目の日程に主催者の一人として参加しました。今回は、ウクライナとロシア、そしてミャンマーからの宗教指導者を正式参加者として迎えて開催されました。実は中東諸国からも参加が予定されていましたが、六月末の米国によるイランの核関連施設への攻撃により中東地域の空港の閉鎖やフライトの一方的なキャンセルが相次ぎ、会議直前になって計画の変更を余儀なくされたのです。中東和平という重要なテーマを外さざるを得なかったのは残念でしたが、それが軍事攻撃の影響によるものであったという象徴的な事例になりました。

 三回目にして私が最も強く感じたのは、紛争当事国からの出席者の、私たち日本人宗教者に対する安心感と申しますか信頼の厚さでした。対峙する相手国の出席者への配慮(例えば、すれ違った際の目礼など)も一回目とはまるで違いますが(最初は、お互い完全無視でした)、全ての方々が主催者である私たちに心を許して参加してもらえていることを、今回は特に強く感じました。もちろん、三年前の初回の時から皆さんとても礼儀正しく、たとえ会議中に厳しく相手国の行為を非難して自国の正義を主張しても、決してののしり合いなどにはなりませんでしたが、今から思えば休憩や食事の時などの非公式な場面でも無駄なことはできるだけ話さないような、何となく張りつめた雰囲気を感じたものです。三回とも出席している方もいれば、今回初めての方もおられましたが「この会議は信頼できる」という共通認識をもって臨まれているように思いました。考えてみれば、会議中の公式発言のみならず、食事中の会話まで盗聴されても何ら不思議ではないほど重要な問題を扱っている会議なのですから…。また、私たちがどちらか一方の味方で、会議を不公平に主導する心づもりが全くないことも、安心・信頼に繫がっているのだと思います。当会議への出席者から直接聞いた話ではありませんけれども、「G7(世界主要七カ国)の中でキリスト教国でないのは日本だけ」という事実は、世界の非キリスト教国の人たちにとって私たちが思っている以上に重要なことなのです。

 こうした信頼があればこそ実施できたのが、「ウクライナ・ロシア」と「ミャンマー」の課題別分科会の開催でした。

 今回、初めて会議出席者名の公開が可能になったので、私も席に着かせていただいた「ウクライナ・ロシア」分科会への当該国からの六名を明記します。
・エヴストラティ・ゾリア府主教:ウクライナ正教会対外教会関係部副部長
・ イホール・シャバン博士:ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会、宗教対話委員会委員長
・ ヤアコヴ・ドヴ・ブライヒ師:キーウおよびウクライナ主席ラビ、ウクライナ・ユダヤ教宗教連合会長
・ ヴァクタン・キプーシス氏:ロシア正教会、教会・社会・メディア関係シノドス副議長
・ ラビ・アリエル・トリガー師:ロシア・ユダヤ人コミュニティ連盟地域開発部長
・ ムフティ・アルビル・ハズラト・クルガノフ師:ロシア・ムスリム精神集会ムフティ、モスクワ・中央地域ムスリム精神管理部責任者

 分科会は、トルコ・カルケドン長老府主教でWCRP国際委員会共同議長のエマニュエル府主教の議事進行で行われました。あくまでも宗教者による話し合いですが、何度も政治的な発言も飛び出し、その度に相手方から強烈な「異議あり!」が主張されながら、かなり突っ込んだ忌憚のない意見が交わされました。紹介しても構わないと思いますが、ロシア人ラビのトリガー師の母親はウクライナ人で、ウクライナとの戦争の辛さを涙ながらに訴えました。双方の宗教者方が、命がけで「命の大切」と「殺してはならない」を訴え続けてくれることを祈り期待しています。

 今回は初日から出席できなかったので、第一回と第二回のように開会に際しての祈りではありませんが、最終日の会議に先駆けてつとめた平和の祈りを以って本稿を擱筆します。
掛け巻くも畏き伊弉諾の大神筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊祓へ給ひし時になりませる祓戸大神たち諸々の禍事罪穢あらむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を聞し召せと畏み畏みも白す
世の中はみな丸事のうちなれば ともに祈らんもとの心を
まるき中に丸き心をもつ人は かぎりしられぬ〇き中なり
誠ほど世にありがたきものはなし 誠一つで四海兄弟
天照らす神の御徳は天つちに みちてかけなき恵みなるかな
(以下を英語と日本語で朗読)
私たちは毎朝日の出を拝んで、世界の平和と万民の和楽を祈っています。一切万物を生み育てる至高の存在の尊きはたらきの顕現が、この地球上では太陽のもたらす生々発展の御恵みだと信じるからです。言うまでもないことですが、太陽の光と熱は、地球上の全ての存在に分け隔てなく降り注がれます。生きとし生ける全ての生命は、尊き御恵みの下に生かされて生きている賜物です。実に単純で純粋すぎることを十分承知で申し上げますが、いかなる理由があろうとも「人間同士が殺し合ってはいけない」「人を殺してはならない」と、私たち宗教者こそが命がけで発言しなくてはならないと信じます。この会合が、「問題解決の最終手段を殺戮行為に頼らない道」を模索する掛け替えのない一歩になりますように、心から祈ります。
 謹みて天照大御神の御開運を祈り奉る