心なおし
(元旦放送のRSK山陽放送ラジオ番組「新春を寿ぐ」より)
教主 黒住宗道

 新年あけましておめでとうございます。この一年の皆様のご多幸と、ご安全を心からお祈り申し上げます。

 依然としてコロナ下ですが、コロナ禍は明けました。何はともあれ素直に喜び、そして感謝したいものです。昨年五月の五類移行以降、世間はコロナ前の当たり前の回復に懸命ですが「せっかくの体験をどう活かすか」が大切です。

 誰もが否応なしに経験させられた三年三カ月間を、自分の掛け替えのない人生の中の「負の遺産」とか「無かったこと」にしてしまうのは勿体ない限りです。

 「コロナのせい」でしんどい思いをさせられましたが、その分「コロナのおかげ」で気づかされた有り難さは無数にあります。また、あらためて振り返ってみると、「あの禍中」の日々も決して辛くて嫌なことばかりではなかったはずです。まだまだコロナ(COVID−19)自体が有り難いなんて、とても言えませんが、いつか「コロナだったからこそ…」と振り返ることができる日が来るかもしれません。

 災難さえも前向きに有り難く受け止める心を、教祖宗忠神は「難有有難」と、まるで言葉遊びのようにユーモラスに説かれました。それは、「難」によって気づかされる数々の有り難さを身に染みて感じるとともに、あらためて痛感する「無難」すなわち「難の無いこと」の有り難さを「当たり前」にしてはならないという反省と、さらには、いつの日か「あの難のおかげで…」と「難」そのものまでも「有り難く」受け入れることができ得るという、自らの心を解し耕し錬って鍛えて養い育てる「心なおし」の生き方です。

 「この道は心なおしの道なり」と宗忠神が明言した「心なおし」とは、病み傷み荒んだ心を治すとともに、歪み凹み曲がった心を直すこと。朝日の御光を全身に浴びて心の奥の元の気“元気”を喚起して、「…にもかかわらず感謝」と「…だからこそ感謝」という“感謝力”で「ありがとうなろう…」と、自分自身を鼓舞して励むことです。

 コロナ禍真っ只中であった一昨年のこの放送で、私は「ありがとうなる」という宗忠神の言葉を紹介して「今こそありがとうなって乗り切りましょう」と申しました。いつも同じような話になりますが、“お日様教”である黒住教の教えの基本姿勢ですから変えようがありません。コロナ禍中は禍中で、またコロナ禍後はコロナ禍後で、周囲の環境に左右され続ける人の心境を、常に本復・復元させようと自ら心掛け・実践する「心なおし」こそ一大事なのです。

 そんな中、まるで「そろそろ元気を取り戻して良いんだよ…!」「もういいよ!」と、天が与えてくださった“元気喚起”のカンフル剤としか思えないのが、サッカー・ワールドカップ・カタール大会を皮切りに、各種目で立て続けに開催されたスポーツの世界大会で、日の丸を背負って戦ったチームJAPANの大活躍でした。

 日本はまだ“禍中”でしたが、中東カタールの盛り上がりに「コロナ明け近し…」を実感しながら“サムライブルー”の大活躍に胸を躍らせたのが、一年と少し前でした。そして、新年早々のハンドボールの世界大会を経て、いよいよ春を迎えた三月に日本と台湾と米国を舞台に開幕した野球のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、大谷翔平選手を中心とした“侍ジャパン”が見事世界一を奪還して日本中が沸き返りました。

 そのほか主な種目だけでも、サッカー女子ワールドカップで奮闘した“なでしこジャパン”、夏の世界陸上に続いて、日本(沖縄)とフィリピンとインドネシアで開催されたバスケットボ―ル・ワールドカップで一段と盛り上がり、秋の世界体操とバレーボール・ワールドカップ、そしてラグビー・ワールドカップの興奮未だ冷めやらぬ私たちです。

 五類移行という日本の事情に合わせたはずはありませんが、実にタイミングよく様々な種目で国際大会が相次いで開催され、その都度チームJAPANの目覚ましい活躍を目の当たりにでき、声援を送って熱く応援できたことは本当に有り難いことでした。私は、コロナで委縮した三年三カ月から元気を喚起させてもらったと純粋に喜び、今も余韻に浸っています。

 思えば、コロナ禍中に、一年延期までして開催された東京オリンピックから、はや三年。この夏には、パリでオリンピックとパラリンピックが開催されます。以前にこの番組でも述べましたように、「開催してもらえただけで有り難い…」という感謝の心を力にして戦った選手たちと、その涙を目にした新たなアスリートたちが、満を持して照準を合わせている今年の“パリオリ”、そして“パリパラ”を、今からワクワクしながら心待ちにしています。

 ただ、能天気なことばかり言っていられないのは、新型コロナウイルス感染症という疫病の禍「疫禍」は明けましたが、戦争・紛争の禍「戦禍」は深刻さを増すばかりということです。ロシアのウクライナ侵攻は泥沼化し、まるでその惨状から世界の注目を離させるようなタイミングで中東ガザが地獄絵図の最悪事態に陥り、それ以外の紛争地域もウクライナとガザの炎が飛び火するように緊迫度が高まっています。それに加えて、「沸騰状態にある」とまで言われる海水温度の上昇による異常気象と自然災害の激甚化、さらには、国内外を問わず犯罪は凶悪・巧妙化し、ネット社会による個人の覆面化が拍車をかけています。

 「楽観的になんて、とてもなれるもんじゃない…」が、誰にも共通する偽らざる心情ですが、「心なおし」は、そうした時にこそ必要であると私は信じます。「良いことも良くないことも、直面する現実に立ち向かって最善の努力をする…」という、何事にも共通する基本姿勢はとてもシンプルで、結局のところ、一人ひとりの現実への向き合い方、すなわち心の持ち方が全ての基本です。コロナ禍中に呼び掛けさせていただいた「今こそ、ありがとうなろう!」を、様々な災禍の中にある今、あらためて声を大にして申し上げたいと思います。

 世界の大和と、皆様のこの一年のご安寧とご多幸を心からお祈りいたします。

※RSK山陽放送ラジオは、昭和二十八年(一九五三)に岡山市に開局し、以降毎年、元旦放送恒例の第一声として、五代宗和教主様の「新春を寿ぐ」とのご挨拶を放送してきました。同四十九年(一九七四)からは、六代様が同放送を受け継がれ、平成三十年(二〇一八)より現教主様に継承されました。