活かし合って取り次ごう!
暮らしの基本に“敬神崇祖”
教主 黒住宗道
平成30年2月号掲載
「敬神崇祖」という言葉さえも知らない人が多い世の中になりました。身近な言葉ではなくなっている証(あかし)のように、パソコン等で「けいしんすうそ」と打ち込んで変換ボタンを押しても正しい四字熟語にはなりませんし、「敬神崇祖」のルビを付けるには常に修正が必要です。「先祖崇拝」とか「先祖供養」という言葉で、ご先祖に手を合わす心は受け継がれていますから何も神経質になる必要はありませんが、長きにわたって日本人が大切にしてきた「神々を敬い、先祖を崇(あが)める」という、神様とご先祖様を同じ敬いの心で崇拝する尊い伝統的宗教心を、一人でも多くの現代人に日常生活の根っこに据えてもらいたいと願って、私は教主として最初の「修行目標」に掲げさせていただきました。
いま、「神々を敬い…」と複数で表記しましたが、わが国古来の信仰である神道の特筆すべき神観「八百萬神(やおよろずのかみ)」信仰は、世の中の全ての尊いはたらきを神と称(たた)えてきた大らかな伝統で、申し上げるまでもなく、本教においても「天照大御神」と「教祖宗忠神」とともに「御三神」と称して、信仰対象の柱として祀(まつ)らせていただいているからです。
「敬神崇祖」についてお話しするとき、いつも思い起こすことがあります。
平成2年(1990)に本教が初めて主催した国際会議「神道国際研究会」を行った際、仏教者の立場から神道について講演していただいた奈良の薬師寺の高田好胤管長(当時)から直接伺った話です。
修学旅行に訪れる小学生に対して、いつも同じ話をしてきました。
「皆さんは、泊りがけの旅行に参加できるぐらいのお兄ちゃんお姉ちゃんだから、自分のお父さんとお母さんの名前は分かりますね?」このように問い掛けると、一斉に「もちろん!」「当たり前!」と大きな声で反応があります。そこで、「じゃあ、そのお父さんとお母さんの、お父さんとお母さん、すなわち皆さんのおじいさんとおばあさんの4人の名前、知っていますね?」と重ねて問うと、引率の先生方は大人ですから次の質問を予測してうつむきがちになる中、子供たちは相変わらず元気いっぱいに「は~い!」「知ってる!」「当然!」と手を挙げて応じてくれます。その上で、「そのお父さんとお母さん、すなわち皆さんにとって、ひいおじいさんとひいおばあさん、8人みんな名前を知っていますか?」と尋ねた時点で、子供たちは初めて「あっ…」と息をのんで気が付くわけです。「そのまたお父さんとお母さん、すなわちひいひいおじいさんとひいひいおばあさんが、全部で16人。そのお父さんとお母さんが32人、その上は64人…。はるか昔から、私たち日本人の多くは、名前が分かるご先祖を“仏様”として祀り、名前の分からないご先祖を“神様”として敬ってきました。だから、『神様・仏様』とは言っても『仏様・神様』とは言いません。それが『敬神崇祖』の心です」
高田管長のご著書を通じてこの話を読み知っていた私は、この話の“使用権”を賜るべく直接お尋ねしたのですが、「黒住様に(『話してよろしい』という)“お墨付き”を差し上げます」と言われた時の笑顔が忘れられません。以来、何度も紹介してきましたが、十数年ほど前に時代の変化を痛感させられたことがありました。おばあちゃんに連れられて教会所に参っていた小学6年生の女の子に、「おじいちゃんとおばあちゃんの名前、分かるよね?」と尋ねると、「え~っと…」と困った顔をされ、隣にいるおばあちゃんを悲しませてしまったのでした。離れて暮らすおじいちゃんとおばあちゃんの名前(姓名の名)までは知らなかったようで、子供(お孫さん)に罪はありませんが、少なくともおじいちゃんとおばちゃんの名前までは「当然知っている!」という前置きがあってこそ際立つ高田管長譲りの話に、今や解説が必要になったことを実感した出来事でした。
家族・親族も“個化・小化”が進み、葬儀は「家族葬」が一般化して「直葬」までもが行われる時代にあって、「両親や祖父母の式年祭(または法事)が折々に行われているのか」ということから確認すべきかもしれませんが、あえて「ひいおじいさんひいおばあさんの式年祭(または法事)に参列する曾孫(ひまご)が、今の時代、どのくらいいるのだろうか…?」と思います。
先祖は、「罰(ばち)を当てられたり祟(たた)られたり呪(のろ)われたりするのが怖いから」祈るのではありません。「親が子を祟ったり呪ったりするはずはない!」という確信の上で、八百萬神の一柱の神として常にお守り下さるおはたらきに報恩感謝の祈りを捧(ささ)げるのが、私たちのご先祖への信仰です。同時に、代々受け継がれてきた遺伝子・DNAは、古来“血”と称して重んじられてきた一人ひとりの「アイデンティティ(自己の存在証明)」そのものです。「自分探し」とか言って悩める現代人の不安解決の答えの一つは、自分自身の元を重んじる心であると確信します。「ひいおじいさんは歌が好きだったんだ(決して上手(うま)くはなかったみたいだけど…)」とか、「ひいおばあさんは、若い頃はお転婆だったけど運動神経が良かったらしい…」とか、独りで背負い込んでいた自分の性格や志向のルーツを見つけられたりして、心がすぅっと楽になったりするものです。
天地の親神たる天照大御神のご神徳(日の御徳(みとく)・御日気(みかげ))が満ち渡る中で、人皆のご先祖のおはたらきもその尊き顕(あらわ)れである八百萬神にお守りいただいて、そして天照大御神とご一体の教祖宗忠神に一層の開運のお導きをいただける黒住教信仰は、日本古来の「敬神崇祖」の本流を受け継ぐ“日本教”です。お子さんお孫さんの暮らしの基本に、しっかり取り次いでまいりましょう!
親の親その親々をたずぬれば
天照(あまてら)します日の大御神 (赤木忠春高弟詠)
草も木も根のなきものは無かりけり
日月を人の深根(ね)とは知らずや (時尾宗道高弟詠)