大本育英会奨学生の集い挨拶

平成27年8月号掲載

 (公財)大本育英会は昭和37年に設立され、岡山県内の学生を対象に奨学金制度を実施してきています。教主様におかれましては、昭和47年以来同会理事として、平成5年以降は理事長として“奉仕の誠”を捧げておられます。

 同会の機関誌「藍松」が毎年2月に発行されています。今年発行の第50号に、昨年8月6日開催の「第53回大本育英会奨学生の集い」における教主様のご挨拶が掲載されました。同誌のご好意のもとに、今月号と来月号の「道ごころ」において2回に分けて、そのご挨拶を紹介させていただきます。(編集部)

公益財団法人大本育英会の概要

 公益財団法人大本育英会は、株式会社大本組の先代社長大本百松翁の遺志により、その遺産の寄付を基金として昭和37年1月11日に設立されました。

 本会の目的は、岡山県出身の心身健全、学力優秀な学生で経済的に困難な者に対して奨学金を支給し、将来社会に貢献し得る人材を育成する事です。この奨学金は、返済義務はもちろん将来何らの制約もない事から、毎年希望者が多く狭き門となっています。

 現在(平成27年4月)の奨学生は87名(大学生61名、高校生26名)です。同窓生については、その数は472名にもなり、政界、財界、官界、教育界等社会の各方面で、百松翁の遺志通り立派に活躍されています。

 挨拶

 皆さん方には、きょうの日にわざわざおいでいただいたことをありがたく思いますし、特に、きょうの8月6日の日は申し上げるまでもなく、広島の原爆忌、69年前のこの日に、人類史上初めて原子爆弾が投下された日であります。数多くの無辜《むこ》の人々が、軍人でもない全くの一般の国民、市民が原爆で亡くなられた日です。改めて、69年前に身失せた方々の御霊安かれとお祈り申し上げることであります。この日をどうぞ、全く戦争を知らない世代の皆さん方なればこそ、よくかみしめていただきたい、是非とも心に止めていただきたいと願います。そういうことが、それぞれの人生の根っことして、まさに名のとおり大本として大切だと思います。特に日本人は忘れてはならないことだと思います。

 この大本組という、大本という名前は、単なる名字のように思ったら大間違いでして、名は体をあらわすと申しますが、私はかねて、この大本組さん、大本百松翁に始まる、大本榮一社長、今の名誉会長、そして今の万平社長に至るまでの大本組の方々を長年に亘って眺めてきまして、人間としての大本をきっちりと務めておられることを尊く思っています。そのしなやかな強さをいつも感じております。大本百松翁は、今は倉敷の連島のご出身でして、若いときから、非常に刻苦精励して、大本組を創設されました。これも、地元の人たちの陰に陽の支えがあったからこそというお思いが強く、郷土、郷里を大切にされまして、皆さん方に尊い浄財を毎月こうしてお送りなさるのと同じような心根で郷里のために尽くしてこられました。ですから、この8月9日のご命日には、今も欠かさず毎年、連島の町から代表の方が墓前に感謝のまことを尽くす、そういうことが続けられています。こういうことが、実は人間にとっての大本なのであります。

 そして、しかも私は事業家ではありませんから詳しくは分かりませんが、極めて堅実な経営をなさってこられました。かつて、バブルと言われた時代、土地成金があふれておる。しかし大本さんは決して、そういうバブル的な動きを取られませんでした。私の学生時分の仲間に、今の経産省の幹部がおりましたが、彼が、当時の大本榮一社長にお目にかかって、感服して言っておりましたのが、なぜ大本さんは、土地を買えばそれだけで儲かるのに、一切手を出さないのかと尋ねたときに、「我々事業家というのは実の業なんだ。浮利、浮いたような汗をかかないで利益を得るならば、それは会社としての健康さを損なう」。こうおっしゃったということを、非常に感動して私に話してくれたことがあります。「根をしめて風に従う柳かな」という昔の歌のような句があります。柳の枝は風が吹けば、右から左へ、左から右へ、まことに柔軟に風に乗っているわけですが、根っこはしっかりしている。決して、風に折れることもなければ、傷むこともない。そうした姿そのままに、この会社は成長された。そういう中で生まれてきたまさに浄財を、皆さん方のもとに毎月お送り下さっている。しかも多額のお金でしょう。いろいろな奨学制度がありますが、この大本育英会ほど多額な、しかも一切返却義務がないという、そういう奨学制度を私は知りません。これは、皆さん方が、自分が優秀だからと思ってもらったら困るのです。確かに皆さん方は優秀です。選ばれた人です。優秀な方だからこそ、本当の深い意味、尊い浄財だと常に自らに言い聞かせてほしい。同じお金でもこのお金は違うのだと。本当に厳しい中で大本組の社員の一人一人が血を流すとは言いませんが、汗のしみ込んだ、そういうまさに浄財、清いお金が、皆さん方のもとへ届けられる、そのことを忘れないようにしていただきたい。

 大本さんは、決してあなた方にそういうことを言われませんが、私は理事長として特に思うのです。今回も、20数名の方が高校1年、大学1回生として出席しておられます。2年生以上の方は、またかと思われるかもわかりませんが、どうぞ恩を忘れない人間であっていただきたい。大変なことです。全く縁もゆかりもないところから、毎月、高校3年間、大学4年間、あれだけの浄財が皆さん方のもとに届けられる。お金があるからできることではないのです。どうぞそこのところを忘れない、そういう人間になっていただきたい。それはすなわち、大本さんの生きてこられた、大本組の人生そのものだと思うからであります。

(つづく)