昇る朝日に手をあわせる(下)
ー日本のお天とうさま信仰を昇華させた黒住教。立教200年。
平成26年7月号掲載
先月号に引き続き、都山(とざん)流尺八「清芫社」(京都市)社主の三好芫山(みよし げんざん)師の後援会「芫志会」の会報「Genzan News」第百号に掲載された、教主様との対談記事を同会のご好意により転載させていただきます。(編集部)
下腹をいかに養うか
芫山 : 黒住教での修行とはどんなものがあるんですか?
黒住 : 黒住教には一種の呼吸法でもある「御陽気(ごようき)修行(しゅぎょう)」がありまして、毎朝起きると東天に向かい手を合わせ、朝日の御光を呑(の)み込んで下腹に納め、天地にとけ込むべくつとめるもので、この下腹をいかに養うかというのが大切なんです。
これは別に珍しいことではなく、日本人は“腹”という言葉で人の心をいっぱい表しているでしょう。“腹”をくくる、“腹”がすわっている、“腹”がたつ…などです。尺八も腹から音が出ているのでは?
芫山 : そうですね。尺八も腹がすわっていないと吹けないと言えますね。
黒住 : それからもう一つ、「お祓い修行」があります。これは「大祓詞(おおはらえの ことば)」を何回も何回も唱え続けるもので、下腹からの声で、だんだん進んでいきますと、自分の口からお祓いの言葉の糸がつるつる出て行くような…引っぱり出されて行くような、自分がお祓いの言葉をあげているのに、あげさせられているような、そんな感じになった時、本当の「お祓い」になっているんですね。
ですから、先生方の尺八も、私は出来(でき)ませんが、自分が吹いている時というのはまだまだで、吹いているうちに自分が吹かされている…引っぱり出されている…という感じになった時には、非常に澄んで、人の心をうつような演奏になっているのでは、と勝手に思っているんですけど ?
芫山 : まったく! そのとおりですね。いい演奏している時というのは、吹いているというよりも、音が勝手に出てきて飛んでいくというような感じですかね。
吉備楽の音色は土の匂いを感じます
芫山 音楽の話になりましたが、大元の宗忠神社ではいつもお稽古をさせてもらってて、その時、雅楽、吉備楽でしょうか? そのお稽古と一緒になったりします。また、市民会館の演奏会でもご一緒したこともあるのですが、教楽としての吉備楽・吉備舞についてお聞かせくださいますか。
黒住 吉備楽は、明治の初め、吉備の国岡山に伝わる古典楽と雅楽がひとつになって生まれたもので、音色などを聞いていると、何か土の匂いがしてきませんか? 私は、ワインは分かりませんけど、フランスワインは雅楽、イタリアワインは吉備楽…そんな感じがします(笑)
芫山 なるほど、面白い表現ですね。よくわかります(笑)
親が教えられない大切なことを子どもたちに
芫山 大元の武道館で、小さい子どもたちが柔道や剣道、空手をやっているのを見ました。そういう方面にも力を入れておられるのですか?
黒住 私はまったく素人なのですが、師範の方々に聞いてみると、我々の修行とまったく同じです。空手道では「下腹で蹴れ!」と。蹴るのは足だろうと思うけど、「違う! 腹で蹴れ! 腹で突け!」とね。柔道では「腰で投げろ!」と。腰と腹・腹と腰は表裏一体ですから
芫山 尺八も「尺八道」という言い方をするときがあるんですが、最近は単に尺八を教えるだけでなく、この尺八道を教えたいと思うようになってきました。
尺八だけやっていると、すぐにやめてしまうんです。やはり、稽古をするうえで、尺八にまつわる諸々のこと 行儀作法や着物のたたみ方、また尺八の今までの伝統的な流れや歴史など、吹くことだけでなく、そういうことを知っていただいた上で尺八を吹いてほしい…と、思うんですよ。
黒住 尺八を通じて何が大切なものなのか…を伝えていきたいということでしょう。
芫山 そうです。そこが大事だと
黒住 “道(どう)”とは首をかけて走ると書きますからね。
芫山 なるほど。もちろん、尺八の吹き方も教えますよ(笑)ただ、それだけではなくて、ということです。子どもはものすごく行儀がよろしい。最近はうちにお稽古に来る子どもも増えてきましたが、行儀作法など親御さんがお知りにならないことも多々あり
ます。
黒住 親が教えられないことを教える うちの道場と一緒ですね(笑)
芫山 けれど親も一緒に学ぶことで続くんですよ。少しでも子育ての手伝いができたら…と最近は思いますね。
異なる宗教者同士の交流で社会活動も
芫山 こちらでも社会活動や福祉にも力を入れたり、海外との交流など、いろいろな活動をされていますね。
黒住 はい、結構いろいろな活動をやっておりますが、これらは向こうから来るもんで、投げられたボールはすべて受けて立とう…というわけで、こちらからボールを投げているわけではないんですよ。
芫山 布教の方法もいろいろあると思いますが、その中でこちらの黒住教というのを知ってもらえたとしたら、すごく素晴らしいですね。次の七代目がそういった活動を?
黒住 そうですね。海外のことなどをはじめ、もっぱら七代目の副教主に任せています。
特にここに事務局を置いて、岡山の異なる宗教者同士が交流して、共通項でグループを作って一緒になって活動するなど、我々の出来ないことをやってくれていると思います。
昔から日本には神道・仏教・キリスト教など、自然に混在していますからね。
芫山 そうですよね。年末、25日にはクリスマス、大晦日には除夜の鐘を聞いて、神社に初詣…ですから。
黒住 そう、それが自然な日本人なんですよ。
外国の方にも日の出を拝む感動を
芫山 海外では禅が流行っておりまして、私も以前、フランスの禅の道場で2回ほど演奏したことがあるんですが、教主ご自身は海外へ行かれたことはないんですか?
黒住 会議などでは行きましたが、黒住教の旗をたてて行くことはありません。
芫山 これから、外国にも黒住教を広めようとは?
黒住 日本の宗教ですから。でも、外国の方にとっては、日の出を拝むというのはミラクルなもので、ここへはよく来られますね。
芫山 そうでしょう。絶対にいいですよね。その時は寒いとか眠いとか、いろいろ考えますけど、あの日の出のお日様を見たら変わりますよ! ほんまに感無量! この感覚は外国の人にも通じると思います。
世界を含め…特に副教主をはじめとした若い人たちには力を入れて広めていただきたいですね。
黒住 そうですね。若い連中たちは、今年の立教200年のことも、300年あっての200年だと盛んに言うてます。
芫山 それは楽しみですね。
今日(きょう)は100号に相応(ふさわ)しい貴重なお話をありがとうございました。
黒住 いえ、こちらこそ素晴らしい記念の号に登場させていただき、たいへん光栄です。
(完)
教主様と三好師は和やかに対談された