「報道と紙面を考える委員会」体験に基づく説得力ある記事発信

平成21年7月号掲載

今年、創刊から130年を迎えた山陽新聞社は、社外有識者の意見を紙面づくりに生かすために平成13年(2001)から「報道と紙面を考える委員会」を設けていて、教主様にはその委員のお一人としてつとめこられています。この度、教主様は、旭川荘名誉理事長の江草安彦氏、倉敷商工会議所会頭(大原美術館理事長)の大原謙一郎氏、弁護士の西田三千代女史とともに「多メディア時代における山陽新聞の使命」とのテーマのもとに、新聞報道が地域社会に果たす役割について提言されました。
 5月31日付の創刊130周年特集版にその要旨が掲載されましたので、今号の「道ごころ」は教主様のご発言を紹介します。                        (編集部)


最近の紙面から

新しい新聞製作システムの導入と輪転機の増強によってローカル面を中心にカラー二十ヵ面体制を実現し、「岡山都市圏版」や「倉敷都市圏版」を創設するなど朝刊紙面を一新した。高齢社会の介護の実情をルポした年間企画や政令指定都市・岡山の課題を検証する連載なども次々に展開している。最近の紙面や記事について率直な意見、感想をうかがいたい。

黒住委員:私は子どものころから山陽新聞を愛読しており、地元紙ならではの、心に響く記事を楽しみにしている。
四国霊場を歩き遍路で巡りながら行く先々で出会った人たちとの交流を軽妙なタッチで描く「風と歩けば」や、生体肝移植を受けた記者自身がつづる「ケースナンバー187」などは興味深い。
体験に基づいた記事は、何といっても説得力がある。こんな記事をどんどん発信していってもらいたい。


「キャンペーン」の意義

山陽新聞は業界で最高の栄誉である日本新聞協会賞を5回受賞しており、そのうち4回までが医療・福祉分野でのキャンペーンだった。先駆的な報道を続けてきたことを誇りに思う一方で、近年はこの種の取材に対する力がやや弱くなっているのではないかと懸念している。

黒住委員:とことん地域に密着し、さまざまな問題に直面した人々の切実な思いや生きようを伝える記事は読む人の心を動かす。こういった長年の積み重ねが山陽新聞に寄せられる信頼の厚さとなっていると思う。
新聞の影響力は昔も今も非常に大きい。今後とも創業の精神を忘れず、地域とともに歩んでもらいたい。


裁判員制度

21日の裁判員制度導入を機に事件報道を再考し、情報の出所をできるだけ明示し、断定調やあいまいな表現を避けることなどを徹底しているが、真実の究明と人権擁護をめぐっては難しい問題をはらんでいる。

黒住委員:国民の中から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加し、これまでの人生経験を生かしてプロの裁判官と一緒に判決を考えていくという制度の趣旨はよく分かる。しかし、判決にかかわる裁判員の心理的な負担はかなり大きい。
私もそうだが「素人なので自信がない」「被告の運命を決めるのは責任が重い」と尻込みしている人も多いのではないだろうか。正直なところ、制度導入については複雑な思いがぬぐえない。


世界同時不況

「百年に一度」といわれる世界同時不況で、地場企業も疲弊の色が濃い。報道に際しては厳しい現実を直視してその状況を正しく伝えなければならないが、暗いニュースばかりが目立つと県民全体が「縮み志向」になりかねないジレンマがある。

黒住委員: 昭和初期の大恐慌から戦中戦後の混乱期、バブル崩壊など幾多の苦難をくぐり抜けて今日がある。山陽新聞も130年の歴史があるわけで、その当時どんな記事が載っていたのか興味がある。逆境をバネに大きく伸びていった企業もあったはずだ。
そこに何がしらかのヒントが隠されているかもしれない。


地方紙の在り方

新聞業界は今、かつてない逆風にさらされている。若者を中心に「無購読層」が増え、インターネットや携帯電話などメディアの多様化も進む。大量の情報が瞬時に世界を駆け巡る中で、地方紙はどうあるべきか。

黒住委員: 今ある出来事を追っかけていくのも新聞だが、時には過去を振り返り、さらには未来に思いをめぐらせるのも重要な役割だ。その意味で私は文化面の厚みに期待している。