今の世に問われているもの(下)  《山陽放送ラジオより》

平成21年5月号掲載

 先月号に引き続き、1月6日に放送された「アンクル岩根のおもしろラジオ講座」(山陽放送ラジオ)の要旨を本項に掲載させていただきます。神道山の日拝式に参拝した元山陽放送アナウンサーで現山陽学園大学客員教授の岩根宏行氏と女性アナウンサーの中山美香女史との会話で、教主様は今日の世に求められている「親と子」「先祖と子孫」「天皇陛下と国民」といった“縦(たて)の絆(きずな)” について言及されました。         (編集部)


岩根:黒住教の日拝にお参りしまして、中山君はなかなかよく知っていて、あの言葉をずっと
   唱えていましたね。
中山:大祓詞(おおはらえのことば)ですか?時々、家で夜とか朝に唱えることがあります。
岩根:そうですか。きょうもずっと彼女は唱えておりましたし、それからこの前も伊勢神宮に
   参ってきたんですよね。
中山:2年ほど前に「お木曳(きひき)行事」に参加しました。本当に沢山(たくさん)の方
   が、物凄(すご)く長い間、身をもってあの杜(もり)を整えていらっしゃり、その伝
   統がちゃんと伝わっているということを目の当たりにする機会でした。きょうも朝、日
   拝式にさせていただいて、毎日毎日どこかで誰かのために祈りが行われている国なんだ
   なと強く感じました。自分のためだけではないのです。
教主:自分のためだけではないと仰(おっ)しゃったが、本当にそうですね。皆、自分が可愛
   (かわい)いものです。しかしその可愛さというか、その我(われ)が我執(がしゅう)
   となり、まるで“自家中毒”を起こすようにわが手でわが首を絞めるようなことになって
   いるのが、今の世の中です。そこのところをちょっと解きほぐして、自分以外のために
   尽くすことです。私はここのところ、頼まれて若い夫婦に「親想い人思いお互いおもい」
   と書いています。「世界は二人のために」という歌が前にありましたが、あれは間違い
   です。「二人は世界のために」です。自分を超えて初めて本当に自分を生かす道がある
   と説くのが、これまた宗教に共通するところです。
中山:“祈る”ということはどういうことか、その扉を開いていくための鍵をいただいたような
   気がいたしました。
教主:これまたユーモラスに教祖の宗忠は言っているのですが、「祈りは日乗り」と。事実
   きょうのようなお日の出をお迎えして日拝していると、自分が溶けているというか、光
   の流れがサラサラとわが体に流れ込んでくるのを感じます。昔から言われることですが、
   清流の中のカゴになれと。川の中にバケツを置いたら、水はバケツを避けて流れていき
   ますが、カゴを置いたら水が通り抜けて流れる。そのようなカゴになったような感じに
   浸っています。それがお日の出を拝む祈りの時で、すべてを解き放ったひとときです。
岩根:ところで昨年、己(おの)れ一人をよしとする弊害がアメリカに出ましたね。ブッシュ
   さんがイラクに行った時に靴を投げつけられました。またアメリカからの金融恐慌も含
   めて、日本も今年は大変なことになるといわれていますが。
教主:このたびのことを見ていますと、日本人の揺るぎないものがいよいよ出てくると期待し
   ています。労働、仕事は日本人にとっては生き甲斐(がい)であり、楽しみであり、喜
   びです。ところが、他の国では、労働は苦しみとする人が多いようです。そこで得たも
   ので人生を楽しむために労働があると捉(とら)えています。仕事そのものが楽しみで
   はないわけです。わが先祖たちは営々として、その逆の生き方を築いて私たちに残して
   くれています。例えばあぶく銭とかいいますが、楽をしてお金を儲(もう)けるという
   ことに対しては、何か不道徳な思いを感じる体質が日本人にはあります。
岩根:ええ、ありますね。
教主:旧の松下電器、現在のパナソニックの創立者、松下幸之助さんがしたというダム経営と
   いいますか、上水と中水と底水。上水だけで経営し底水には絶対手をつけない、そうし
   た堅実さを備えています。仕事が生き甲斐であり、そこに人間が生きる世界があるとい
   う血のようなものが日本人には体質としてあります。ですから、私はこんなことで日本
   はひっくり返らないと思います。
岩根:なるほどね。私たちはどんな気持ちで、今年を過ごせばよいのでしょうか。
教主:今、岩根さんは岩根さん、私は私で生きている、いや生かされています。このいのちの
   働きの“根っこ”を常に求めるというか、探すというか、あるいは自分自身に教育して
   いく意識を持つことが大切です。戦争は、勝った国が負けた国を二度と立ち向かわせな
   いように骨抜きにするのが、昔からの習わしです。アメリカは半年で済むと思っていま
   したが、3年8カ月も続いたのが先の大戦です。勝ったアメリカをはじめ連合国側が、
   日本の力の源泉は何かと問うた時に、親と子、先祖と子孫、先生と生徒、先輩と後輩、
   ひいては天皇陛下と国民という“縦の絆”が日本の強さであることに気付きました。そ
   こでそれを断ち切れということになりました。日本はそれまで負けたことがなかっただ
   けに、敗戦そのものに弱く、アッパーカット、いやダブルパンチでした。原爆まで落と
   され、もう完膚なきまでに打ち倒されて、今まで積み上げたものがすべて悪かったと思
   い込まされたのです。そして日本人は教育の問題から国の体制、宗教に至るまで全部悪
   かったと思ってしまったのです。「お国のため」を今度は「私のため」だと。それ“自家
   中毒症状”の元凶です。しかし、もう64年ですか、あの戦争以後、世界大戦は一度も
   起こっていません。確かにイラクなど局地戦争はありますが。厳然たる事実として、あ
   れ以後、有色人種の国は全部独立していったではありませんか。
岩根:そうですね。
教主:ということは、原爆や焼夷(しょうい)弾で亡くなった方はもとより、敵味方を離れて
   あの戦争で命を捧(ささ)げた人たちのおかげで、日本人はもとより世界の人々が目を
   開いたのではないでしょうか。しかし今日、私たち今の日本人は犠牲となられた方々を
   犬死ににしてしまっているように思えてなりません。「戦争は嫌だ、戦争は駄目だ」と
   言うだけで、もちろん戦争が良いと言う人はいませんが、戦争の事実をもっとしっかり
   つかまなければならないと思います。戦争で亡くなられた方々に対する感謝の思いを忘
   れてはならないのです。
岩根:私たちも今年も元気にやっていきたいと思いますが、自分に一番欠けていることは何か
   なと問いながら、一生懸命頑張っていきます。
中山:伺っていて、私は人の親でもありますので、やはり自分が親としてしっかりすることだ
   と感じました。子供に何をどう伝えていくのかということを、教主に問われたような気
   がしまた。
教主:仕事を持っているお母さんに大きな悩みがあると思います。ずばり言うと、子供といる
   時間が圧倒的に少なくなっています。しかも幼少の時、幼児の時にです。これが大問題
   です。私の知っているアメリカ人から聞いたのですが、若い女性が、それもバリバリで
   IBMとかワシントンの政府部局に勤めていた人が、子供が生まれたら、いわば授かっ
   たら辞めていくのです。子育てに勝る大仕事はない、これほど尊い仕事はないと。しか
   し、今の世の中、なかなかそうはいきませんよね。食べ物にしても、複合汚染されたよ
   うな物が実に多い世の中です。その中で、何を食べさせたらよいか。本当に賢いお母さ
   んというか、賢い親が求められていますね。
岩根:いや、本当にそうですね。若いお母さんにとっては物凄く大事なことだと思います。
中山:それこそ自分の子供のことだけでなく、社会全体がそれをしていかないといけない気が
   します。
教主:昔は「社会」という言葉でなく、「世の中」、「村」でした。今日、その村が無いので
   いろいろな村を作っていますが、幼稚園や小学校のお母さん方の集まりなどでお互いに
   啓発し合い、さらには自分勝手なモンスターペアレントといわれるような親御さんなど
   も、牽制(けんせい)していただきたいですね。
中山:どこかで朝、誰かが祈ってくれているのなら頑張ろうかなと思えます。
岩根:確かにそうですね。
教主:どこにいようと、朝が来ない日はないのです。だから、どこででも朝起きられたら御光
   りをゴクンと呑(の)み込む。そういう時を持ってご自分の“いのちの大元”を感じ取っ
   てほしいと思います。有り難いという感謝の思いが湧(わ)いてきますよ。
                                     (完)