「瀬戸内寂聴展」記念座談会  可能性切り開き現役でありたい(下)

平成20年11月号掲載

 先月号に引き続き、天満屋岡山店で9月5日から15日にかけて開催された「作家生活50周年源氏物語千年紀記念瀬戸内寂聴展」(NHKサービスセンター、山陽新聞社主催)の記念座談会(山陽新聞9月11日付に掲載)の後編を転載させていただきます。        (編集部)


愛すること

越宗:年間に3万人が自ら命を絶つという生きにくい時代ですが、寂聴さんの小説「釈」は「この世は美しい。人の命は甘美なものだ」という釈の言葉で終わっています。

寂聴:私は本当に今の世は嫌だと思うんです。人に対する思いやりがなく、自分さえよければいい。まして親が子を、子が親を殺すとか、目的もないのに殺してみたかったなんて、だれでも殺す。とんでもない話です。お釈様は矛盾や不条理なことだらけのこの世は苦だと、お決めなっている。
 では、なぜ私たちが生まれてきたのか。自分の命によって人を幸せにしなさい、という意味です。この世は不条理ではあるが生きるに値するところであり、自然は美しい。人間もばかなことばかりするけれど、愛すべきものだということです。 
 お釈様はすべての悪をご存じだけど、この世は美しいとおっしゃっている。その言葉をつぶやくと生きる勇気がわいてきます。人の命は本来、美しい、甘美なものなんです。

越宗:それが愛ですね。 

寂聴:愛とは想像力。相手が何を苦しみ、何を欲しがっているか。それを想像し、満たしてあげようと思いやることです。思いやりが愛なのです。想像力イコール思いやりイコール愛です。
 想像力を養うためには新聞や小説を読め、映画、芝居を見ろと言われますが、これは全部文化です。文化というものは想像力を養うためにあるものです。

黒住:想像は創造へとつながります。

寂聴:展覧会に行くことも想像力を養うためなんです。美しい絵を見てもおなかいっぱいにはなりません。でも心は感動するじゃないですか。そうすると想像力が生まれる。芸術、文化は想像力の源です。それを大切にしない国は滅びます。

黒住:いかに感動の場を、特に若い人に与えていくか。高橋さんはそれをなさっている。秀桜基金留学賞として、1億円もの私財を投じて若手作家を毎年海外へ送り出している。海外で日本を感じて来いと。次回で3回目になりますね。

越宗:高橋さんはエロス、命の源を芸術の核にしておられます。

高橋:私は制作することで命を養っています。制作は、生きる喜び、命の存在を確認できるものです。その喜びを自分以外の多くの人と分かち合いたい。それで制作以外にも手を広げています。多くの人を引っ張り込みたいんですね。

寂聴:「秘花」で観阿弥が息子の世阿弥に言っています。われわれは、見る人に寿福を与えるために能を演じるんだ、と。私が小説を書き、高橋さんが絵を描くのは、自分の喜びでやっているんですけど、それが読む人、見る人に寿福を与えているんですね。


世に行動する

越宗:「秘花」は、世阿弥の晩年の生き方が大きなテーマですね。今、老いをどう生きるかについて関心が集まっています。

寂聴:自分が年を取ったと思わない方がいい。自分の年齢を意識した時に、その年齢になってしまう。それを認めないことです。いくつになったから出しゃばったらいけないとか、赤い服は着てはいけないとか、遠慮する必要はない。死ぬまで現役で憎まれ口をきいてれば、元気ですよ。好奇心も失ってはだめです。

高橋:寂聴さんが年齢などまったく感じていないことはよく分かります。私も制作しているとやりたいことが次々膨らんできて、年齢など気にしている暇はありません。なぜやりたいことがたくさんあるかというと、人を喜ばせたいという気持ちがあるからですね。

越宗:みなさんに共通しているのは、世の中に向けて行動している点です。寂聴さんは湾岸戦争停戦を祈願する断食をされたり、救援物資を自らイラクに持って行かれている。

寂聴:イラクの時は遺言を書いて行きましたけどね。いつでも命懸けなんです。そうすると何も怖いことはない。何でもできます。みなさんそうだと思いますが、命を惜しんでいたら自分の仕事だってできませんよ。

越宗:行動する宗教者といえば黒住教主。若いころから重症の心身障害のある子どもたちのために施設をつくる運動に教団を挙げて取り組まれ、福祉、文化活動に教主自ら率先されています。

黒住:宗教者は、言うだけでなく行動が伴わなければ。私が今取り組んでいるのは、平成25(2013)年に20年ごとの第62回式年遷宮を迎える伊勢神宮のことです。国の在り方を考える上で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)をまつる伊勢神宮が大切と思うからです。
 天皇は即位された時に大嘗祭(だいじょうさい)を行われますが、これは伊勢神宮の天照大御神の御神霊を迎える一大神事です。その天皇霊とは、雲の上の話ではなく、子どものためには命も投げ出す母親のように国民を思い祈る心です。古くから続く伝統的な神事や皇室の本質は、今の人に十分理解されていません。語り伝え意味を知ってもらうことの大事さを思うのです。

越宗:高橋さんのお話もうかがいたい。

高橋:若い人を育てる秀桜募金や沙美アートフェストなど行っていますが、制作という非常に孤独な行為を支えるつっかい棒なんですね。私はアートで世を変革していくと言ってますが、それは自分に言い聞かせている言葉で、その思いで制作しています。

黒住:高橋さんからは後継者の育成にかける情熱を感じます。

高橋:後継者を育てるというより、後の世代に何らかのものを与え残しておきたいんですよ。先祖がいて自分の命がここにあるわけですから、命を受け継ぐ現世代のわれわれ一人一人の未来に向けての義務だと思うんです。

寂聴:未来を背負うのは若者です。私たちはどうせ間もなく死ぬんですから。若者にも次代を担うのは自分なのだという自覚と誇りを持ってほしいですね。 (完)


せとうち・じゃくちょう
1922年徳島市生まれ。本名・晴美。東京女子大卒。「花に問え」など著書多数。現代語訳し「源氏物語」はベストセラーになった。女流文学賞、谷崎潤一郎賞、文化勲章など受賞・章。73年出家、京都・嵯峨野に「寂庵」を結ぶ。

たかはし・しゅう
1930年福山市生まれ。武蔵野美術学校中退。61年安井賞を受賞し63年渡伊。エロチシズム薫る独自の抽象表現が評価され、88年日本芸術大賞、94年紫綬褒章、2005年山陽新聞賞を受賞・章。04年から倉敷市在住。倉敷芸術科学大客員教授。

くろずみ・むねはる
1937年岡山市生まれ。京都大文学部卒。黒住教青年連盟長を務めていた65年、中四国を対象にした「重症心身障害児施設建設運動」は「旭川児童院」の設立につながった。67年山陽新聞賞受賞。73年から第6代黒住教教主。