自閉症児に深い理解を

平成13年9月号掲載

この度「不思議の国の住人たち・・自閉症児とともに」という本が出版されました。これは、日本自閉症協会岡山県支部が結成されて三十周年を記念して、自閉症のわが子と共に歩んで来られた親御さん方の筆になる“いのちがけの書”と言っても過言でないものです。私どもも、自閉症という読んで字のごとく自らの内に閉じこもって母親とも気持ちの通じ合えない人たちがいること、しかもそういう子供を持つ親が大変なことぐらいは知っていました。しかし、この本によってそれがどんなに厳しいものであるかは初めて知ることができました。と同時に、私たちが、とかくはやり言葉のように言ってきた“ともに生きる”とか“共生”と言った言葉の持つ意味が、なまやさしいものではないことも知り、冷汗の出る思いにもなりました。


 次々と血の出るような体験が吐露されていますが、中でも次の一節には心うたれました。
 「彼が不安や混乱からパニックになり、泣き叫び苦しんでいる姿に、私は思わず涙したのだった。こんなに苦しんでいるのだ。共に悲しんでやればいいと思った。共に悲しみ、共に楽しみを共有することにより、信頼関係も生まれるものだと思った。私とて、本当に困った時は、だれかに助けてもらいたい。無視されたり、ほおっておかれたりしたら、私は心を閉じてしまう。信頼する心もなくしてしまう。パニックは、むしろ彼と信頼関係をつくるチャンスだと思えた」。彼は昭和五十三年生まれで四人兄弟。多い時は九人という大家族の中でこの人を育ててきたお母さんの手記です。
 私たちは、自閉症というと、核家族のしかも親が共働きの、したがって幼少時に母親とのスキンシップが少なかった子供に多いのではないか、といった片よった思いを抱いてはいなかったでしょうか。それは、とんでもない過ちであり、偏見であったことを知り強く反省させられました。
 八歳になる男の子の母親も「……親ばかを自認するぐらいに、子供たちへの愛情には自信がありました。なのに、ずっといっしょにいて、だれより彼を分かっているつもりだった私自身にも、息子の“異常”に、原因の心当たりがないのです。たくさん抱いて、たくさん話しかけました。ですが、かえって息子の気持ちが遠くなっていくような気がしました。……自閉症は先天的な障害で、本人のせいでも、家族のせいでもありません」と言い切っています。
 ある父親は「私には子供が三人いるが、長男は自閉症という障害を持っている。……障害を持つ子の親が“この子がいて幸せでした”とコメントしていることがあるが、私は残念ながらそういう心境には達していない。何しろ大変である」と述べていますが、淡々としたひとことひとことだけにそのご苦労の程が一層強く迫ってきます。
 実は昭和四十年、当時の黒住教青年連盟が大きく世に訴えた“重障児運動”が実って誕生した旭川児童院に、“動く重障児”といわれた子供たちの一室がありました。この人たちが今日いうところの“自閉症児”でした。その後、旭川荘はわが国の自閉症児問題の先達役を担い、その治療教育の研究推進、また親の会の結成など、旭川荘を中心にこの問題は一時にくらべると長足の進歩を遂げましたが、世の中の人々の認識はいまだしの感まぬがれえないのが現状です。


 折から発刊なった「自閉症の人たちを支援するということ(朝日新聞厚生文化事業団出版)」の冒頭には、自閉症について次のように記してあります。
 「自閉症は脳に何らかの障害があるために、社会生活を送る上でさまざまな困難を伴い、生涯にわたる援助を必要とする障害です」。
 私たちに大切なことは、まずこうした問題を人ごととしないことであろうと思います。わが子、わが孫がそういう状態にあったときに、自分はどういう態度をとるか、どういう生き方をするだろうかと想像するところにその一歩が始まるのではないでしょうか。
 そして同時にそうした時間を持つことは、わが心の中に新たな自分を発見し、育み、結果的に自分自身をより心豊かなものに育ててくれると信じます。
 前記「自閉症の人たちを支援するということ」によりますと、自閉症に特徴的な行動は、一、なまけているように見える。二、やる気がない。三、指示まち。四、促さないと行動しない。などがその典型的なもののようです。実はその裏に、一、行動を組織化することができない。二、時間の概念が理解できない。三、先の見とおしが理解できない。四、社会的な報酬が動機づけにならない。五、何を期待されているのか理解できない。というような“障害”がかくされている場合が多いようです。
 もし、私たちの周囲に自閉症の人たちがいらしたら、このような視点に立ってこの人たちに接し、まさに「生かし上手」になって、この人たちの“よきところ”を探しみつけて心からほめ称えることからこの方たちとの交流が始まればと願うことです。どうぞ、心の中で、この方たちの「ご分心の御開運」を祈りながら、この方たちを「生かし上手」に生かし切っていただきたく願います。
 かねてじっ懇にしていただいています、自閉症児問題に長らくかかわってきた旭川荘の中島洋子先生(精神科医)は、この本の“おわりに”を次のような一文でもってしめくくられています。
 「……この三〇年、私は未熟な臨床実践を通して、御家族からどれだけたくさんのことを教えてもらったことか。若いお母さんにひたむきさを、私と同年齢の方には不屈の意志と勇気を、また老年期に入られた先輩には人生の知恵とやさしさを教えていただいたと思う。そして、困難なことであればあるほど、人は鍛えられ真価を発揮する生き物だと実感した。
 ここに収録された手記を読むにつれ、私は仕事をさせていただきながら逆に、自閉症児から大切な贈り物をもらっているのだ、と改めて思うのである」。
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