教育」二題

道ごころ 平成25年12月号掲載

 教主様は、岡山市にある学校法人「関西(かんぜい)学園」の特別顧問をおつとめになっていますが、このほど山陽新聞(10月27日付)の紙上において、同学園理事の越宗孝昌氏(山陽新聞社社長)の司会により、理事長の井上峰一(みねひと)氏(㈱いのうえ社長)、参与の森末慎二氏(関西高校OB・ロサンゼルス五輪体操金メダリスト)、理事の橋本岳氏(岡山高校OB・衆議院議員)と対談されましたので、教主様のお言葉を紹介します。

 また、教主様には「岡山県立岡山西支援学校(旧養護学校)」の教育後援会長を長年にわたりおつとめで教育後援会報紙に、同じく教育後援会長をおつとめの「おかやま希望学園」の現状を紹介されましたので、併せて掲載させていただきます。 (編集部)

個性尊重し文武両道貫く(山陽新聞より)

 126年の歴史を持つ関西学園は、有為な人材を数多く世に送り出し続けている。昨年4月に井上峰一理事長が就任し、徳育を重視した新たな関西学園づくりが進む。関西学園に関わる四氏に、これまで同学園が歩んできた道を振り返り、目指す将来像などについて話し合ってもらった。司会は、関西学園理事を務める越宗孝昌・山陽新聞社代表取締役社長。(文中敬称略)

■校訓への思い
 越宗 関西高校と岡山中学校・高校を擁する関西学園。文武両道を貫き、個性を尊長しながら有為な人材を育成している。その背景には関西学園の精神を表す校訓(《編集部注》「敢為(かん い)」=思い切って行う)が大きく影響している。

 黒住 関西学園には骨太な“男っぽさ”がある。卒業生はチャレンジ精神が旺盛な人が多い。校訓が学園に深く浸透しているのは、教師が生徒たちに寄り添い、やる気を起こさせ続けた賜物(たま もの)だ。恩師との出会いは、生徒たちの心をたくましく成長させる。これからも「恩師」となる教師を育成していただきたい。

■歴史と伝統
 越宗 関西学園は校訓の精神に基づいた、素晴らしい歴史と伝統を誇る。

 黒住 関西高校の卒業生には、社会派作家の石川達三氏もいる。教職員組合運動を取り上げた「人間の壁」、政治の腐敗を描いた「金環蝕」といった数多くの作品を出しているが、常に反社会的なことに対し、強烈な正義感を燃やしていた。とにかく悪を見たらじっとしていられない。有名無名に関係なく、男気のある熱い人が数多く生まれている。

■スポーツで活躍
 越宗 「スポーツは関西」と言われるほど、関西高校の活躍は華々しい。2020年の東京五輪に向けた選手育成、出場に期待が高まっている。

 黒住 体を鍛えることで、心が鍛えられる。スポーツで強くなるには、やはり楽をしてはいけない。つらいことに耐える経験ができるのは、スポーツが一番。難易度の高い目標を自分で定め、果敢にチャレンジすべきだ。昔から日本人は礼節と規律を重んじてきた。練習の前後には掃除をし、試合終了後は対戦相手や会場に一礼をする姿勢も学ばせたい。

■学園の将来像
 越宗 「私学の雄」として関西学園に寄せる期待は大きく、さらなる飛躍を望んでいる。皆さんが思い描く学園の将来像を伺いたい。

 黒住 関西学園には人間性豊かな教師がたくさんいて、どんな生徒も温かく受け入れる懐の深さが特長。青春時代には部活動や受験勉強など、いろんな苦労をすべきだ。汗と涙を流すことで母校愛が生まれる。そしてこれからの時代は、どんな状況に置かれても強く生き抜く力を備えておかねばならない。特に関西高校は男子校。逆境をチャンスにするような、バネのあるたくましい男性に育てる伝統を守り続けてほしい。

不登校児のための「おかやま希望学園」
(西支援学校教育後援会報より)

 岡山県の中央部、吉備中央町に「おかやま希望学園」という不登校児のための小・中学校があります。学校でいじめられたり仲間はずれになって、いわゆる閉じこもりになった子供や、人と交流のできない子供を、全寮制の合宿生活で教育している全国的にも稀(まれ)な学校です。私は、当西支援学校の二代校長森綾夫先生のお勧めでご縁をいただいて久しくなりますが、この学校は、昨年の秋には経営的に万策つきた状態に陥り、今年の新入生は受け入れることを断念せざるをえない状況になっていました。

 ここでは、生徒間の問題はもとより一人ひとりのトラブルが起きるたびに「トラブルこそ成長のチャンス」と先生方が努められていますが、学園のこの窮状(きゅうじょう)にこの精神で敢然(かんぜん)と立ち上がったのが、黒瀬堅志理事長と渡邉誠二学園長でした。その熱意と行動力には鬼気迫るものがありましたが、やがて岡山県当局も理解して特別の計らいをして下さるようになり、なんとか愁眉(しゅうび)を開いたのでした。

 折から、NHK岡山放送局は記者を希望学園に張り付けて取材し、後日、その映像は全国放映されました。私もこの番組で改めて心打たれたのですが、ここでは一人のK君という中学一年生に焦点が当てられていました。

 彼は食事も皆と離れて一人でしますし、皆で合奏する音楽の時間も、楽器は手にしますが演奏をしようとしません。ある日、彼がカバンを傷つけられたと怒っているのをチャンスと見た先生は、皆での話し合いの時間を持ち、それを機に運動場での持久走に彼を参加させました。小さな校庭を20周する持久走で、遅れて一人になってしまい、立ち止まったり座り込むK君を、先生がなんとか再び走らせ始めたとき、他の生徒たちが次々と一緒に走り出し、ついにK君は完走することができました。その日の彼の日記には「みんなにかんしゃ」とありましたし、楽器を持って皆と一緒に演奏するところで番組は終わりました。

 K君はもとより、彼と一緒に走った生徒たちも表情が変わっていたのに胸熱くなりますとともに、ここに教育の原点があるとしみじみ思ったことでした。