東京平和円卓会議 ─重責を与って─
教主 黒住宗道
掛け巻くも畏き伊弉諾の大神筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊祓へ給ひし時になりませる祓戸大神たち諸々の禍事罪穢あらむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を聞し召せと畏み畏みも白す
謹みて天照大御神の御開運を祈り奉る。併せて
ウクライナ戦禍をはじめ各地各所の戦場における殺戮行為の速やかなる終結を祈り奉る。
世の中は皆丸事の内なれば 共に祈らん元の心を
丸き中に丸き心をもつ人は 限りしられぬ丸き中なり
誠ほど世に有り難きものはなし 誠ひとつで四海兄弟
是の会合が「問題解決の最終手段を殺戮行為に頼らない道」を模索する掛け替えのない一歩になりますように、心から祈ります。 拍手
これは、去る九月二十一日午前十時から都内某所において開催された「東京平和円卓会議」の開会に際して、私が諸宗教者を代表してつとめさせていただいた「平和の祈り」です。
出席者の安全を考慮して関係者のみに限定告知して開かれたこの会議は、世界宗教者平和会議(WCRP)の国際委員会(本部:ニューヨーク)と日本委員会の主催で、十四カ国から五十余名の宗教者および政府関係者が出席して行われた、紛争和解に向けた画期的な挑戦でした。何よりも特筆すべきは、ロシア、ウクライナ、シリア、エチオピア、南スーダン、ブルキナ・ファソ、ミャンマーという七カ国の紛争地域から、宗教指導者が実際に出席したことです。個人を判明できる情報は危険ですから詳しくは明かせませんが、ロシア正教会の主教協議会の幹部とロシアのユダヤ教指導者とイスラーム指導者、そしてウクライナ正教会のエヴストラティ大主教(この方は、NHKの取材を受けて全国ニュースでも紹介されていたので公表しました)とカトリック指導者と宗教担当政府関係者をはじめとした、紛争当事国の重要な立場にある宗教者および関係者が、三日間にわたって行動を共にして円卓を囲み、真剣に意見を交わして和解への道を模索したのです。
三日間と記しましたが、二日目の二十二日は、明治神宮や浅草寺などの都内の宗教施設への参拝と会食を通して、参加者同士の心の距離を近づけてもらうことを目的とした日程が組まれ、最終日の二十三日にあらためて和解に向けた話し合いと「声明文」の採択が行われました。
私は、秋季祖霊祭のため初日だけ出席したのですが、実は、前晩(二十日)の歓迎レセプションの冒頭に、開催国を代表して歓迎挨拶を行うことにもなっていました。
翌朝の「平和の祈り」とともに、重要な発言の場を立て続けに与えられた私は、まず歓迎レセプションで、日本古来の八百萬神信仰を紹介して、「『神々は共存していらっしゃる』と信じる私たちは、『人類が抱える様々な難問に対して、最後の最後の解決手段は殺し合いしかない』とは決して信じません。この会合が、『問題解決の最終手段を殺戮行為に頼らない道』を模索する掛け替えのない一歩になりますように、心から祈ります」と、願うところを申し上げました。その上で、翌朝の祈りにおいて、最初に紹介した「併せてウクライナ戦禍をはじめ各地各所の戦場における殺戮行為の速やかなる終結を祈り奉る」の詞(ことば)を奉唱し、「是の会合が『問題解決の最終手段を殺戮行為に頼らない道』を模索する掛け替えのない一歩になりますように、心から祈ります」の文言で締めくくりました。
そもそも、この会合だけで平和が訪れるとは誰も思っていません。事実、会議での相互の主張の多くは完全にすれ違い、議論して是か非かの決着をつける場ではありませんから、どうしても理念的な話題にならざるを得ないのも想定内のことでした。しかしながら、七カ国もの紛争当事国から、とりわけロシアとウクライナの両国から、責任ある立場の宗教指導者が出席したという事実は紛れもなく画期的なことでした。たとえ意見はすれ違っても、相手の肉声による主張は耳に残ったはずです。また、親しく会話をしなくても、同じ部屋で食事を共にしながら過ごした時間は、間違いなく“次の段階”に何かしらの影響をもたらすと信じています。すなわち、出席者各位がそれぞれの地元に戻って宗教指導者として活動する言動のどこかに、この度の「東京平和円卓会議」の三日間で感じた何かが役立つに違いないと思うのです。このように申し上げる理由は、外ならぬ紛争当事国から参加した皆さんが他の誰よりも、この会議の日本での開催を喜び、私たちの期待以上に心から感謝して下さったからです。
満場一致で採択された「声明文」の最終項目は、「私たちすべてが、人間の命の神聖さとすべての人々への愛を育み続けることが不可欠であると認めること」でした。「人間の命の神聖さ」を命懸けで説き諭す紛争地域の宗教指導者の声が、殺戮行為の抑制に結びつきますように…。