“更新節”を迎えて
教主 黒住宗道
令和四年壬寅の今年、まさに「おかげさまで」私は心身ともに充実して有り難く還暦の年を迎え、今月十八日の誕生日で満六十歳になります。
天照大御神様、ご一体の教祖宗忠の神様、そして八百萬の神々、黒住家の先祖代々の御霊様に、感謝の祈りを捧げて道の誠を尽くすことこそが報恩の実践と心得て、日々真剣につとめさせていただいておりますが、本誌上にてあらためて心からの御礼を申し上げます。とりわけ、この節目の年を両親が健在で迎えられることは無上の喜びで、誕生日に御神前で一緒にお祓いを上げて、感謝の思いを直接伝えられることを今から心待ちにしています。
同い年の友人たちと語らいながら気づいたのが、定年のある多くの勤務者にとって六十歳は“現役”で迎える最後の大台であるとともに、“人生百年”の時代に次の舞台を意識したケジメの時ということでした。古稀(七十歳)は古稀で、また傘寿(八十歳)は傘寿で、新たな大台を迎えた時の思いは格別なのでしょうが、「まだまだこれから…」という“再出発感”が誰からも伝わってきます。それは、定年のない教主四年九カ月の、しかも「(還暦なんて)まだまだ中堅どころ…」という一人の宗教者としての私にとって、新鮮な気づきであり喜びでした。「それならば…!」と、友人たちと思い立って企画を始めたのが、「報恩還暦祭」の開催です。
「人生百年時代に、還暦は更新節。
これまでの人生に感謝して、
その思いを社会に還元して、
これからの人生を感動とともに!」
社会経験も豊富で物心両面で地域に貢献できる同年代の“還暦組”が同い年の仲間を幅広く募って渦の中心になり、恩返しの心意気で行事を主催する「報恩感謝の祭典」です。まず、イベントプランナー(催事企画者)とか事業経営者を中心としたメンバーで実行委員会を立ち上げ、皆から推されて私が取りまとめ役の委員長に就きました。経験豊かな優秀な人材が楽しみながら我が事として計画を推進する報恩活動ですから、責任者とはいえ私だけ“業務負担”が増えることはありません。まだ内容は披露できませんが、皆で考えた「六十歳が中心になって、他の世代の皆さんにも喜んでいただく『報恩還暦祭』」というアイデアは、来年以降の後輩世代や、場合によっては他の地域においても大いに参考にしてもらえるようなユニークな試みになり得るだろうと、皆でワクワクしながら計画を進めています。
先日も弟の宗忠神社宮司と話をしていて「さもありなん…」と思ったことですが、「古稀(古希)以降は『賀寿・祝寿』として迎える方が多いけれど、還暦は『厄年』として認識されていて、お道(宗忠神の御教え)的には『賀寿・祝寿』に一本化したいところではあるけれども、一般の参拝者が多い神社では『厄払い・厄難消除』の祝詞も準備している…」とのことでした。“現役”なればこそ、「『厄年』として注意を喚起して(気を付けて)迎えるべき年」という先人からの智慧なのでしょうが、「厄年は役年、すなわち役に立つ(役を果たす)年」として積極的に受け止めるのが数年来の世間一般の解釈でもあります。それならば、なおさら「報恩感謝の還暦祭」は意味があると思いました。また、誰もが違和感と不自然さを覚えながら、猫も杓子も赤いちゃんちゃんこと頭巾をかぶって年寄りの仲間入りを皆に祝ってもらうことにも「もっと別の試みがあっても良いのに…」と常々思っていましたので、“赤ちゃん還り”を否定こそしませんが、赤色をシンボルカラーにでも使って、自分たちが中心になって社会に御礼を申し上げる方が自他ともに喜び合えるに違いないと考えました。
いずれにしても、還暦を“再出発=更新節”として同じ年齢の多くの仲間たちと共に迎えられる幸せを感じながら、結局は折に触れて、事ある毎に心新たに更なる一歩を踏み出す「祓いの教え」の実践として、この大切な人生の節目の年を迎えている有り難さに気づきました。
本稿でも度々お話ししてまいりましたが、私たちの信仰生活の基本は「神道は祓いの一言に在り。祓いは神道の首教なり」で、「時々刻々常祓いに祓えよ」、「毎朝毎朝、生まれかわった心地で日拝をせよ」、そして「有り難きことのみ思え人はただきょうのとうとき今の心の」に象徴される、何時でも何処でも「ありがとうなる」修行です。誰もが迎える還暦の年を、報恩感謝の実践の時として広く世の人々に認識してもらえることができたら、この上ない喜びです。有り難い限りです。
まだまだ収束・終息の気配のないコロナ禍と泥沼化する一方のウクライナ戦禍という、世界を揺るがし続ける不穏な不測の事態が常態化して、私たちの日常生活は直接・間接的に大きく影響を受けています。大御神様の御心たる「ご分心」を以って我が心を養い用いる“養心・用心”に、まさに日々心掛け続けないと、いつの間にか心身の支障を来してしまいがちな危うい日常に私たちは身を置いています。還暦という個人的な話をしましたが、報恩感謝を楽しみ喜んで実践する一つの事例として、お道づれ各位の“元気を喚起”できたら…と願っています。月末には、今年の折り返し地点である「大祓大祭」が斎行されます。お一人お一人が、今年という一年を、今月というひと月を、今日という一日を、そして、今という瞬間を、どうやって「イキイキ、ウキウキ、ワクワク」と過ごせるかは、自らの心次第です。全ては「おかげさまで、ありがたい!」と、どれだけ心から感じられるかです。
年末にでも「報恩還暦祭」の報告ができれば…と思っていますが、それとは別に、実は「還暦記念に、ぜひ伊勢神宮に連れて行ってほしい」という高校時代の友人たちからの熱いリクエストに応えて、岡山からのバス組と現地集合組とで神宮参拝する「還暦参宮ツアー」を十一月に行う予定です。「おかげさまで…」を実感できる、良い年齢になってきた同い年の仲間たちと、生かされて生きる有り難さを分かち合えることを願いながら、有り難くも充実した“更新節”を過ごしています。
どうぞ、お元気で、お大事に、ご安全に…。