日本統合医療学会岡山支部総会
  基調講演の依頼を再び受けて
教主 黒住宗道

 昨年、コロナ禍のため中止された日本統合医療学会岡山支部の総会・学術講演会の本年度の開催が計画され、あらためて講師の依頼がありました。迷わずお受けして依頼書を読み返すと、昨年の「医療と宗教」から「宗教と医学・社会福祉学を考える│宗教者が統合医療に期待するところ」と、大会テーマが改まっていました。「医療」と「医学」の違いも大いに気になるところですが、それ以上に「社会福祉学」が加わっていたことに驚きました。当然のことながら、昨年準備した講演原稿の加筆修正が必要になりますが、「祈りと奉仕に誠を尽くす」ことを旨としてきた私にとって、「この新たなテーマは、むしろ歓迎すべき」と考えました。そこで、昨年八月号から十月号の「道ごころ」に紹介しました「祈れ、薬れ」に社会福祉の側面を加えて新たな講演原稿を作成するための“下準備”に、今月は少しお付き合いいただければと思います。

 依頼書には、「外国の病院ではチャプレン(臨床宗教師)が必ず一人は配置されている。現在日本の病院ではほとんど知られておらず、 臨床宗教師を養成できる学科があるのは東北大学のみ。臨床宗教師の活動は日本の病院にも必要に感じる。この臨床宗教師の活動について関係者をパネリストとしてディスカッションできればと考える(後略)」と、私の講演後のパネルディスカッションのテーマも付記されていました。そうなると、必然的に「臨床宗教師についても基調講演の中で話しておくべき…」という思いに至るわけですが、有り難いことに、私は東北大学に臨床宗教師養成学科が最初に寄付講座として開設された時の関係者の一人でした。昨年四月号から六月号の「道ごころ」に掲載した「『永遠の“今”』を生きる」の中で紹介していますように、現在私が責任者である(公財)世界宗教者平和会議日本委員会「災害対応タスクフォース」が「東日本大震災復興支援タスクフォース」として立ち上げられた際、東北大学に日本で最初の臨床宗教師養成講座を開設するための資金援助が活動の一つとして掲げられ、震災翌年の平成二十四年(二〇一二)十一月には私自身が一度講師もつとめているのです。

 昨年、コロナ下の自粛期間に集中して書き上げた「『永遠の“今”』を生きる」と「祈れ、薬れ」の二つの異なる講演原稿を、コロナ禍により講演そのものが中止・延期された結果、一体的に関連付けて書き直すことになるとは想像もしていませんでした。「これもご神慮…」と思って、十月の講演会に備えようと思います。

 さて、「臨床宗教師」もさることながら、本教と「社会福祉」となると、まずは五代宗和様が設立に全面協力され、現在私が評議員をつとめる「(社福)鳥取上小児福祉協会 天心寮」について、そして何と申しましても「(社福)旭川荘」とりわけ重症心身障がい者施設「旭川児童院」創設以来のご縁という、それらについて語るだけでも与えられた時間では足らないほどの足跡があります。まず、天心寮については、かつて川崎医療福祉大学で私が講演させていただいた「山本徳一先生のこと」(本誌平成二十三年[二〇一一]十一月号「神道山からの風便り」に掲載)を紹介し、旭川荘については、児童院創設に向けた若き頃の六代様(当時青年連盟長)の取り組みから今に続く婦人会(あさひ会)を中心にしたボランティア活動を通して、本教の奉仕の精神である「させていただく」についてお話ししなければなりません。

 昨年の演題「祈れ、薬れ」に「させていただく」を加えたテーマで、どのように一つの講演にまとめるか…。「説教大工になるな」との御戒めが頭を過ぎりますが、単に昨年準備した原稿に新たな文章を書き連ねただけでは、伝えたいことは伝わりません。実は、本稿を執筆しながら少しずつ頭の中が整理できてきたのですが、病み悩み苦しむ人の為に祈ることは奉仕の精神そのものですから、まずは「させていただく」に根差した人の為の祈りと奉仕を、黒住教を信仰する私たちの社会活動の基本姿勢として示し、その上で自らの信仰生活の中で「医療と宗教」を如何に両立させるかという観点から昨年の「祈れ、薬れ」の内容を紹介して、結果として「信仰(宗教)と医療(医学)と社会福祉(社会福祉学)」を網羅する存在として「統合医療に期待する」という流れで、落ち着くべきところに納まるのではないかと考えているところです。

 依頼書には、「大会参加者は、統合医療に関心のある医師、看護師、栄養士、柔道整復師、理学療法士、作業療法士、ヨーガ療法士、鍼灸師等の医療従事者と、将来、医療従事者を目指す学生等」とありました。西洋医学の外科的施術・投薬治療を“外からの癒やし”、東洋医学の自然治癒力や免疫力を高める施術・治療を“内からの癒やし”と表現するならば、「天照大御神の分心」という自らの本心・本体からの本復力(元気喚起)を“奥からの癒やし”と称して、生々の大道(御教え)を説けるのが本教の大きな魅力です。統合医療に関心をもつ医療従事者諸氏に、“日拝修行”・“お祓い修行”・“御陽気修行”の「三大修行」と、何事も活かし上手に「一切神徳」と有り難うなって心をなおす御教えが、いかに心身の健康に効果的であるか、すなわち黒住教信仰による心と体への“実効性”を伝えて、一人ひとりの生命力の源である「ご分心(心の神)」の確信と、全ては天照大御神の恵みと守り、教祖宗忠神の救いと導きと信じ切れる、信仰の有り難さを話せることを、今からとても楽しみにしています。願わくは、お道信仰を土台にした医療従事者の輩出に繫がれば…と期待しています。

 延期されているもう一つの講演「『永遠の“今”』を生きる」は、コロナ下で激務に追われている医師各位による同窓会支部主催なので依然開催は未定ですが、当初「講演後で良いので、同じ内容で話をしてほしい…」と公民館に勤務する同窓会の友人から頼まれていた約束を先に果たすことになり、“予行演習”ではありませんが論点を絞った内容の講演を七月に行います。少しずつですが、コロナ下における活動の再開を実感しています。昨年温存した力を、用心と心配には一層心掛けながら、いよいよ発揮してまいりたいと意を新たにしています。