「第十回世界宗教者平和会議ドイツ大会」に参加して
教主黒住宗道

本誌に甥の黒住忠且(宗忠神社宮司長男)が報告していますように、去る八月二十日から二十三日までの四日間、ドイツ南部の都市リンダウにおいて「第十回世界宗教者平和会議世界大会」が開かれ、私は日本使節団副団長として出席しました。

世界百二十五カ国・地域から約一千人が参加した今回の大会は、多額の費用を拠出したドイツ政府との共同開催であったことが特徴で、国家元首であるシュタインマイヤー大統領の基調演説に始まり、外務省が主宰した「宗教と外交」の分科会等、宗教と民族の違いを超えて調和・共存を模索するドイツ連邦共和国の“本気度”が随所に伺われた国際会議でした。

「慈しみの実践:共通の未来のために-つながりあういのち」を主要テーマとして貧困問題や気候変動、ジェンダー(男女差別)問題、平和構築、次世代教育等が全体会議と分科会、また組織運営委員会(ビジネスミーティング)を通じて議論され、私は正式参加者として公式プログラム以外の会合にも出席し、最終日に発表された「大会宣言文」の朗読者の一人として登壇する機会を与えられました。

大会参加を前に予め英語で準備した私の発言要旨は、以下の二点でした。
①本大会は、ドイツ政府という国家とWCRP(世界宗教者平和会議)という宗教コミュニティーが初めてパートナーを組んで開催されたことが何よりも意義深いこと。我々が直面する地球規模の課題は、それぞれのコミュニティーを超えて、より大きなネットワークをいかに構築して具体的な実践に取り組めるかが重要。その意味で、世界規模での地球上の全ての「いのち」の持続可能性を目指すSDGs(国連が策定した「持続可能な開発目標」)を共通理念とする意義は大きい。宗教者、政治家、科学者、ジャーナリスト、経済人等のジャンルの異なる人たちが、民族、信仰、文化、国籍を超えてSDGsという共通目標について話し合い、具体的な活動として実践することが重要。私たち本大会参加者は、今回議論された諸問題を、それぞれ母国に持ち帰って個人・ローカルのレベルから発信し、自分自身の問題として議論を深めて実践しなくてはならない。
②本大会の参加者全員が共有する理念に相反する主張を、まず明らかにしておくことが重要。それは、信仰上の理由の有無に関わらず、自分の主張のみを善(正義)とする独善主義と、それに反する考えを否定する排他主義を同時に主張する「独善排他主義」。本大会出席者は、まず「独善排他主義」に異を唱えることを総意とする姿勢を明らかにすることが必要だと思う。その上で、「独善排他主義」を主張する人たちを、いかに説得するかという難題に取り組む意志を確認して共有すべきであると思う。実際には、独善排他主義者を説得・懐柔することは不可能かもしれないが、何としても「独善排他主義」だけには陥ってはならないという信念を共有し、それに共鳴する人たちの輪を広げて世界的なマジョリティー(多数派)の構築を目指すことで、結果的に理念を共有する者同士の一層の相互理解と信頼関係の構築が図られ、本大会の主要テーマに近づけるのではないかと考える。

活発な議論が展開される会議の中で、原稿の全文を読み上げる機会は得られませんでしたが、「それぞれのコミュニティーを超えて、より大きなネットワークをいかに構築して具体的な実践に取り組めるかが重要」ということと「『独善排他主義』に異を唱えることを総意とする姿勢を明らかにすることが必要」というメッセージを分科会等で発言して、何人かの出席者や主要主催者に原稿のコピーを手渡して意見を深め合うことができました。

また、日韓関係が悪化している時期だからこそと、韓国宗教使節団との非公式会合が開かれました。私は日本使節団副団長として、「いま日本では来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて盛り上がっているが、個人的には一九八八年のソウルパラリンピックに深い思い出がある。ご縁のあった韓国の社会福祉施設が競技会場になったことから私たち黒住教の若手メンバーが清掃奉仕に出向くことになり、数日かけて会場整備を手伝った“ご褒美”として開会式に招いていただいた。隣国間の関係には難しい問題もあるだろうが、個人の繋がりを今後も大切にしていきたい」と発言しました。最終的に全員が「個人として、また宗教者として、今まで築いてきた信頼関係を持続・強化することが今こそ重要」との意見で一致して笑顔で握手できたことは、本大会の一つの成果であったと思います。なお、直接言葉を交わすことはありませんでしたが、本大会には北朝鮮からも数名の出席者が招かれていました。

大会最終日、私は「大会宣言文」を朗読する代表十一人の一人に指名され、開会式と祈りの式典に際して身に着けた紋服・白衣・袴に身を正して閉会式に臨みました。最後まで手直し作業が続いた五ページにわたる宣言文の最終案が手元に届いたのは閉会式直前で、「“一夜漬け”ならぬ“朝漬け”…」と冷や汗をかきながら担当する部分に絞って読み上げの猛特訓をして“本番”を迎えました。静まり返った会場に響く前任の方々の朗読の声に緊張は高まりましたが、「ご分心の御開運の祈り」と「守られて幸わう“道の祈り”」を心の中で唱えると驚くほどに冷静になれて、難無く有り難く心を込めて読み上げることができました。思えば、一九七九年にニューヨークのセントパトリック大聖堂で行われた「第三回世界宗教者平和会議アメリカ大会」の開会式で「大調和の祈り」を英語で捧げられたのが当時の教主様でした。今回随行してくれた黒住忠且君、そして高知大教会所所属の西田裕道君(天心衆故山崎善與女史の孫)と共に、黒住教教主として“晴れ舞台”を賜ったご神慮に感謝したことです。