宗教と平和-国際会議「ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム」に参加して-
平成27年5月号掲載去る4月9日と10日、(公財)世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会と世界イスラーム連盟の共催による国際会議「ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム」が、日本、サウジアラビア、パキスタンなど八カ国から二百人が参加して東京都内で開かれ、私は「宗教と平和」をテーマとしたパネルディスカッションで発表する機会を与えられました。
本稿先月号で紹介した内容を中心に発言しましたが、「神道の教えの大元」と称えられてきた教祖宗忠神の御教えをいただいているからこそ、イスラーム(イスラム教)とも共有できる価値観を明らかにしながら意見を述べることができました。
今回、「宗教と平和」について対話の難しさと現実の厳しさを深く学ばせていただいたのは、実は、ステージを降りた後の“舞台裏”でのことでした。
サウジアラビア王国が主幹する世界イスラーム連盟事務局と事前打ち合わせを進めていた日本側の事務局から、私は会議の直前になって急きょ要請を受けて、共同声明文の起草委員に加わっていました。スタッフルームを訪れると、何やらただならぬ緊張感が室内に張りつめていました。手渡された声明文(案)の中の次の二つの文章が、その主な原因でした。
「本大会は、サウジアラビア王国、湾岸諸国およびその同盟国が、イエメン国内のテロリストであるフーチ・ギャングに対して実施している諸活動に対して支援するものである」
「本大会出席者は、サウジアラビア王国ならびに同盟国による『決意の嵐』作戦に感謝する。それらはすべて、イエメン国の安全保障と安定、そしてイエメン国民の団結のためになされているものである」
すでに双方の起草委員の間で合意されている他の項目の中に、「本大会は、イスラーム国(IS)やアルカイダやイエメンのフーチ等の過激派の諸組織が犯している暴力行為や殺戮行為が、イスラームの平和と慈悲の教えに反するものであるとして、これを強く非難する」という文章があるにもかかわらず、イエメンでの過激派掃討作戦を指すサウジアラビアの行動を明文化して、それに対して支持および謝意を表明する内容を共同声明文に掲げようとする先方の主張は、私たち日本側の理解と許容範囲を超えたものでした。
その反対に、「平和を守るためには、戦わなくてはならない」という“平和観”を当然とする先方からしますと、平和構築のための努力を受け入れない日本こそ全く理解できないといった様子で、今までの過酷な自分たちの体験を語りながら「なぜ反対するのか、その意味が分からない」と繰り返すばかりで打開策も見つからず、双方の平和観の違いが際立つ一方でした。
しかし、他の検討事項も含めて文案の全項目を数時間かけて協議する間に、政教一致を厳守する彼らの立場と政教分離の日本の常識の違いに対する相互の理解も深まり、最終的に前記の文章の表現と声明文内での表記の扱いが議論の中心になりました。
「厳しい状況下にある貴殿方からしますと、私たちの平和観は“実に未熟で、赤ん坊の夢物語”のようにしか聞こえないかもしれませんが、少なくとも宗教者による共同声明文に該当の文章を載せるべきではないと考えます。本会議の議論は、とても初めての試みとは思えないほど充実していて、その上、この起草委員会では、非常に重要な『平和』についての意見を、決して険悪な雰囲気にならずに率直に交わすことができました。結果的に、ここにいる私たちは素晴らしい宗教間対話をすることができたと思います。勝手なことを申しますが、無理に共同声明を出す必要はないのでは…?また、どうしても出さなければならないのなら、すでに合意できている項目をまず列記して、最後に問題の項目においては『合意に至らなかった』と正直に表明するのも例外ではないのでは…?」という私の発言が切っ掛けになり、いったん中座して、それぞれの関係者と相談してから、翌朝に“仕切り直し”をすることになりました。
果たして、翌朝の先方の態度は非常に柔軟になっていて、イエメンに関する項目自体を外すまでには至りませんでしたが、具体的な表現は極力抑えられた緩やかな文章になっていましたので、許容範囲内と判断して、何とか午後の閉会式での発表と採択に漕ぎ着けることができました。
思いがけず、非常に貴重な経験を積ませていただきました。決して、先方を非難するわけでも、また、興味本位で裏話を明かしているものでもありません。会議全体の報告にもなってはいませんが、宗教間対話の実例として、ぜひ紹介させていただきたいと思った次第です。
また「思いがけず…」といえば、パネルディスカッションでの発表を終えた私に駆け寄って挨拶して下さった、塩尻和子東京国際大学特命教授・筑波大学名誉教授との出会いがありました。カメラを手にした元外交官のご主人宏氏と共に私を訪ねて、「実家の母が喜びますので、一緒に写真を…」と申し出られたのですが、なんと林野教会所(岡山県)所属の黒住教教徒の家のご出身でした。日本におけるイスラーム思想研究の第一人者としてご活躍の和子女史(ご夫人)と元リビア大使で中東問題の専門家の宏氏(ご主人)との出会いは、黒住教のもたらしたご縁、まさにご神縁でした。ぜひ神道山にお参りいただくよう、ご案内申し上げたことです。