慈悲善根を施すは、
芽をかぎ捨てて
元木を強むるが如し(御教語)

 「麦踏み」は発芽した後に足で踏みつける作業で、トラクターやローラーを引いても同じ効果があるそうです。芽が出たばかりで踏みつけるのは、一見かわいそうに思いますが、根の張りを強くして耐寒性が高まるといいます。さらに、麦踏みによって成長後の倒伏を防ぐことができ、株分かれを促進するとも考えられています。

 また、玉ねぎや花の球根などを育てる際の鉄則は、花が咲く前に切り取ったり踏み倒して、それ以上の生長を止めてしまうことだといわれています。植物にとって大切な〝元木(根や幹)〟をしっかり養うためには、つらく厳しい作業が必要となるのです。このことは、人間にも相通じることです。

 慈悲善根(いつくしみあわれむ心、善い果報を招くべき善因)を施すことが、つらく厳しく感じられたり、自分の損得のための行いであっては、誠からの本当の思いやりではないのです。まさに「損して得取る」、いや「損して徳取る」となるべく、教祖神御教えの「離我一誠(我を離れて誠一つ)」、また「離我任天(我を離れて天に任す)」を目指しつとめていくことが大事です。

 しかし、個化・孤独化・無縁化の著しい現代社会において、自己中心的な考え方が主流となり、他を慮る心が薄れてきています。人の喜びをわが喜びとする心を養う上で、自然の恵みを基とする農作物の一見つらく厳しい作業と同じ行為が必要といえます。

 今月の御教えは、目には見えない私たちのご分心(心の神)という大元(根っこ)を養い育て、そのおはたらきを存分にいただくためのコツを、自然の働きを通して、教祖神が端的にご教示下さったものです。自己中心的な、いわばわがままな生き方がまかり通る現代社会において、世のため人のために〝奉仕の誠〟を尽くすことが、ひいては、本当に自分のためになることを心してまいりましょう。