天照らす神と君との一すじを
          忘れ給うな人の心に(伝御神詠)

 岡山の東山に玉井宮という神社があります。この拝殿で、毎月18日に定席が開かれていましたが、弘化3年3月18日、「きょうは皆様方に、特にお話ししたいことがありますから、しっかりとお聞き下さい」と、殊更に前置きをしてつとめられた名高い「玉井宮でのご講釈」を学ばせていただきます。

 「先夜、奇妙な夢を見ました。どこからか奉書が届き、出頭するようにとのお達しで、行く先が分からず彷徨(さまよ)っておりましたら、彼方に巨大な社殿が見え、きっとここであろうと思って門をくぐると正面に大きな玄関があり、手前に白砂が敷き詰めてありました。そこへ人が現れて、あの白砂の所へ行くようにとのことで、そこで平伏して待っておりますと、御殿の奥から長官とおぼしき方がお伴(とも)を連れてお出ましになり、『その方、黒住左京宗忠なるか。その方を呼び出したるは余の儀にあらず、今まさに天下大乱なり。この世界中の大乱を鎮めねばならぬにつき、その方に総督総大将を申し付ける。早々に出陣して、世の乱をすみやかに鎮静すべし』と仰せられ、思いもよらぬことでしたが、大命ですから、身に余る光栄と考えて、『身命(しんみょう)を投げ打って世乱を鎮定いたし、御(み)心を安んじ奉(たてまつ)らん』とお受けしましたところ、甚(はなは)だご満悦のご様子でした。与えられた武具を身に着けて馬に乗り、後ろを振り返れば、数万の軍勢が私に拝礼して付き従い、勇ましい限りです。さあ乗り出そうとするところで夢が覚めました。

 不思議に思ってよくよく考えてみますと、今は大乱どころか天下泰平の徳川の治世ですが、これは形の上のことではなく、人心惑乱に相違ない。地球上億兆民の人心の大乱を打ち鎮めよとのことで、まさに天照大御神のご大命と、初めて気付き決心いたしました。

 この左京は、これより心魂打ち込み、もっぱら人心鎮定に打ち掛かり、天照大御神様のご神慮を安んじ奉る所存でありますから、きょうご参集のお道ご熱心な方々、どうかともどもにご奮発、ご加勢下されたい!」