「随想随筆」
教主 黒住宗道

宗教専門紙「中外日報」の依頼により、企画コラム「随想随筆」に寄稿した四回にわたる文章を転載します。

「グローバリー」

“Think Globally, Act Locally”(地球規模で考え、足元から行動する)という言葉があります。“Think Locally, Act Globally”(地元として考え、地球規模で行動する)との主張もあるようですが、いずれにしても「グローバリー」と「ローカリー」の視座を常に自らの言動指針にしたいと思っています。

いま「自らの」と記しましたが、“Commit Personally”(自ら意思決定する)が最重要であると若い頃に教えられ、今も大切にしているのです。

以上の観点から、「想いに随って、筆(キーボード)に随って」言葉を綴らせていただきます。

今年八月、ドイツ・リンダウで「世界宗教者平和会議第十回世界大会」が開かれ、私は日本使節団副団長として出席しました。ドイツ政府が多額の資金を拠出し、国家元首である大統領が講演し、外務省が協力した前例のない世界大会で、ドイツの本気度を感じました。

朗読者として私も登壇させていただいた閉会式で採択された宣言文は、「共なる行動への呼びかけ」で締めくくられました。当然のことですが、グローバリーに協議された諸事項がローカリーに実践されて初めて大会の意義が顕かになります。

ドイツ外務省が主宰した「宗教と外交」分科会で、私は「信仰に基づいている、いないに関わらず、自分の考えのみを善とする独善主義と、それに反する意見を否定する排他主義を同時に主張する独善排他主義に対して敢然と異を唱えて、共鳴者の輪を世界的に広げるべき」と訴えました。独善排他主義への明確な批判を前提としない限り、いつまでも宗教や民族や国籍等の“違い”ばかりが問題視されるからです。

ただ“言うは易し、行うは難し”が現実で、イスラームに限らず過激な原理主義者に対して、宗教指導者の多くは、「彼らはテロリスト」と断定して宗教と切り離して発言しがちです。「グローバリー」の難しさを実感した大会でもありました。


「ローカリー」

先月九日、岡山市内で「天台仏教青年連盟全国大会」が開かれ、その中心行事として私が事務局長を務める「人道援助宗教NGOネットワーク(RNN)」による「第十回ヒーリングコンサート─癒しと祈りの和奏会─」が行われました。

イスラームの朗唱、真言宗の御詠歌、カトリックの聖歌、金光教と黒住教の吉備楽、そして天台宗の声明という、各宗教の祈りの音楽の演奏会は、私たちRNNの主要活動の一つです。

RNNは、岡山県内の諸宗教を中心に一九九六年に発足した協働連合体で、現在十二の宗派・教団が“仲間”です。毎月の定例会を基本に、緊急救援、被災地復興支援、慰霊・復興祈願、スタディーツアー、フォーラム、そしてヒーリングコンサート等、ローカルからの宗教対話と宗教協力の実践を心掛けています。

最近の活動の中心が「常住寺復興プロジェクト」です。常住寺は天台宗の一寺院ですが、備前岡山藩主池田家の祈禱寺であったという由緒と、天台宗の高僧に止まらない日本宗教界の大先達であられた岡山ご出身の大阿闍梨葉上照澄師が長年住職を務められた名刹という事実を、有り難い神慮・仏縁と受け止めて、RNNの「“Play(楽しんで行動する) and Pray(祈る)”の場」として重宝させていただいているのです。

また、東日本大震災以降、毎年三月十一日午後二時四十五分から黒住教本部神道山の日拝所において「RNN慰霊祭」を執行しています。地震発生時刻の黙?の後、宗派毎の祈りを捧げますが、毎朝欠かさず日の出を拝んで世界大和と萬民和楽を祈っている黒住教信仰の拠点は、RNNにとっても掛け替えのない祈りの場となりました。

前回紹介した世界宗教者平和会議の世界大会で、私は「本大会のような諸宗教間の対話と協力が、各々の地元(ローカル)で展開されなければならない」と訴えましたが、RNNの仲間たちとの二十年以上の実績があればこそ胸を張って発言することができた主張でした。

これからも、「祈りに基づく行動」と「行動を伴う祈り」を合言葉に、心を一つに誠を尽くしたいと思っています。


「パーソナリー」

いま世界はあらゆる分野で細分化・個別化が進み、個を基本とした価値が科学技術の恩恵によるネットワークで結ばれて成り立っています。便利で快適な生活は多くの人々に物質的な豊かさをもたらしましたが、格差の拡大と常に満たされない不足感の鬱積、そして利己主義の蔓延は顕著になるばかりで、精神的に豊かな社会とはとても言えません。個を基本とした価値が優先されればされるほど、互いの個性を尊ぶ思いやり・慮りが今まで以上に必要であることは明らかです。

個人(パーソナリー)に向けてどうやってメッセージを届けるか…を考えた結果、私は一つの試みとして「ツイッター」の活用を思い立ちました。今や、総理大臣や大統領のツイッター発言が国内外の情勢を左右する時代です。SNSと呼ばれる個人を対象としたインターネット配信を使ってみようと思ったのです。

「新しいことを始めるなら、新たな時代の幕開けとともに…」と考え、平安時代に書かれた「土佐日記」の冒頭部分をひねって「米国大統領もすなるツイッターといふものを、教主もしてみむとてするなり…」と言い訳しながら、令和の始まりに合わせて三日に一度のペースで呟き始めました。「黒住教主」を検索して、一人でも多くの方にご覧いただきたいと願っています。

また、前号で紹介しましたRNN(人道援助宗教NGOネットワーク)の新たな活動として、復興プロジェクトを展開している常住寺(JoJuJi)の一角にJ3スタジオを設えて、一昨年から月に一度の「ツイキャス・ライブ」配信を始めました。

「心ひとつに! RNN」という番組を生放送して、過去の動画も再生できる、ネット社会ならではの取り組みです。たわいもない会話が中心ですが、信仰の違いを超えて二人または三人の宗教者が“よい話と、どうでもよい話”を織り交ぜなら自然体で話す姿を配信して、“宗教”に対するハードルを少しでも下げることができたら…と思っています。

家族構成が変わり、地縁・血縁の伝統的なつながりが薄らいでいる今の時代に、失ってはならない“宗教心”を一人ひとりの心に何とか伝えたいと念願しています。


「まること」

二年前の黒住教教主就任に際して、私は「『まることの世界』の実現を目指して」と題した「告諭」を発表して、教主としての所信を表明いたしました。

「まることの世界」とは、人の誠に顕れる心の神のはたらきが一層現出されて、全ての人々が和やかに共に栄える理想の世界です。「人は元来、罪の子でも穢れの子でもない。ご分心(天照大御神のわけみたま)をいただく尊い神の子」と信ずればこそ、人皆の心の神のはたらきが大いに発揚されることを願って、ともに祈り合い、互いの誠を活かし合って、“日の御徳”を取り次ごうと呼び掛けているのです。

まことに畏れ多いことですが、先代教主である父からの教主継承を教団内外に発表した後に、奇しくも天皇陛下の御譲位が明らかになって、新たな御代を迎えることになりました。僭越ながら、「まること」と重ね合わせて一層有り難く「令和」の時代を迎えさせていただいています。

「まること(丸事)」は、天地自然は元来丸い状態(完全調和)で丸いはたらき(循環作用)であることを示した本教独自の言葉で、教祖宗忠神は「誠は丸事にてすぐに一心一体なり」、「誠の本体は天照大御神の御心なり」等の教えを通して、人の誠と天地の誠の一体性を説いています。

本欄で、私は黒住教の教えの基本である「まること」の世界観に基づいた具体的な実践を四回にわたって綴らせていただきました。人皆に内在する本来の神性が存分に発露・発揚されるよう、我欲や我執という汚れや穢れを祓い清めて、自ら自らの心を養い鍛えて、誰もが掛け替えのない自分自身の人生を豊かに健やかに歩まれることを祈り願っています。


《宗忠神詠》

心とは外にはあらず天地の有無を離れし中の活物

天地の心は己が心なりほかに心のありと思うな

世の中はみなまることの内なればともに祈らんもとの心を

まるき中に丸き心をもつ人はかぎり知られぬ○き中なり

誠ほど世に有り難きものはなし誠一つで四海兄弟