教主としての
  「うったての年」を振り返って
教主 黒住宗道

平成30年11月号掲載

 昨年9月18日に黒住教教主を拝命して、2年目を迎えています。責任の重さを日々実感しながら、心身ともに元気に充実してつとめさせていただけていることを有り難く思っています。

 「立教二百年大祝祭」を中心とした“祭り年”の締め括(くく)りであり黒住教三(サン)世紀の幕開けの年であった平成27年(2015)にも紹介しましたが(本誌平成27年7月号「神道山(おやま)からの風便り」)、岡山の方言で「気合を入れて新たに物事を始めること」を「うったて」と言います。そもそも書道用語で、最初の一筆を入れる際の一瞬筆を止める(置く)ことの意味で、「起筆」や「始筆」が共通語とのことですが、この「うったて」という言葉、岡山では一般用語として日常の会話で当たり前のように用いられます。岡山弁だということを知らない地元の人も多く、私も初めて方言であることを知った時に「別の表現が思い当たらない」と驚き当惑したものです。

 かつて、神道山へのご遷座に向けて着々と計画が進められていた昭和47年(1972)正月に、いよいよその年の11月11日の起工式に始まる大教殿の建設を「うったて」と表現された五代教主様のお言葉の存在を知り(「お道づれ」[後に本誌「日新」と合体した本教の機関誌] 昭和47年1月号「年頭のことば」)、新たな時代の始まりに対する五代様の熱いお心に感激したことがあります。私は、教主就任一年目を「うったての年」という特別な思いで取り組み、とりわけ毎月の「道ごころ」を通して、七代教主時代の方向性を打ち立てさせていただきました。本稿では、これまでの「道ごころ」を総括的に振り返りながら、多用した皆様への呼び掛け(スローガン)を関連づけて整理しておきたいと思います。

 まず、教主として初めての「道ごころ」(平成29年10月号)は、継承式に際して発布させていただいた「告諭」の全文掲載でした。
  「まることの世界」の実現を目指して
   奉祈(いのりたてまつる) 人皆の心の神の御開運(ごかいうん)
   天照(あまて)らす神の御徳(みとく)を取り次ごう 互いの誠を活(い)かし合って
 新たな祈りの言葉である「守られて幸(さき)わう“道の祈り”」をもって締め括った「告諭」とともに発表した「示達(じたつ)」を、継承式での説教とともに掲載したのが翌11月号の「道ごころ」でした。
   三世紀は参世紀「さあ参ろう! 人が人よぶ参世紀」
 12月号は、“嵐を呼ぶ教主”と呼ばれるのではないかと思うほど“祓い清めて”いただいた幕開けを前向きに受け止めて、嵐に立ち向かうぐらいの覚悟と根性で「台風の目のごとく澄み切って誠を尽くそう!」と決意を新たにいたしました。

 そして新年を迎えた1月号は、現代の世の中に生きる全ての人々に向けたメッセージでした。
  「有り難い!」を、もっと身近に
 さらに、お道づれ各位に「祈りの誠」と「孝養の誠」を、何はさておきつとめていただきたいという思いを込めて、教主として初めて提示した修行目標を紹介したのが2月号です。
   活かし合って取り次ごう!
    暮らしの基本に“敬神崇祖”

 また、お道づれであってもそうでなくても、知り合いの方が病み悩み苦しんでいると知ったら、その方の元気回復を共に祈る“道の仲間・同志”であっていただきたいという教主の願いを示したのが3月号です。
  “元気”を喚起
   病む人皆の快癒・本復を祈りましょう!

 ここまでの半年間(10月号から3月号)、いささか「呼び掛け(スローガン)」が多いと感じられたかもしれませんが、全ては「まることの世界」の実現を目指して「人皆の心の神の御開運を祈り、互いの誠を活かし合って天照らす神の御徳を取り次ごう」という「告諭」の精神の実践徳目であることを理解していただけると思います。再来年に新たな修行目標を発表するまでは、新たなスローガンは控えますので、あらためて該当の「道ごころ」を熟読・精読して、日々実践を心掛けて下さいますよう念願することです。

 翌4月号からは視点を変えて、まずは世界の大和(たいわ)に向けて諸宗教が協力する意義を「日本宗教代表者会議」を代表して述べた文章と、「神道の教えの大元」を地名の由来とする大元学区の機関紙に大元小学校卒業生である私が執筆した教主就任挨拶(あいさつ)という、グローバル(地球規模)とローカル(地元地域)の観点からの寄稿二題(4月号)。そして、まさに尊きご神慮の賜物(たまもの)である「神道山」の有り難さをしっかり学んで、ご遷座半世紀に向けてますます黒住教信仰を揺るぎないものにしていただきたいという願いを込めて著した「吉備の中山・神道山 ―お日の出の郷(さと)からの祈り―」(5月号)、また教主として初めて迎えた誕生日ということで、私事ながら私の原点を綴(つづ)った6月号と、幾らか公私が混同したかもしれませんが、“根っこ(拠(よ)り所)”あってこその大きな展開があることを意識して執筆いたしました。

 最後に、「うったての年」を締め括る思いで、教主としてのメッセージを込めたのが翌月からの「道ごころ」でした。まず7月号で、新たな用語「学び徒(と)」を提示しました。「まることの世界」の実現を目指す「まることの人づくり」につとめることを「示達」に明記しましたが、「お道づれ(教徒・信徒)」=「学び徒」を常に意識して、日々の生活に教祖神の御教えを活かして実践する黒住教信仰者であってもらいたいと願っています。その上で、今年と明年の修行目標である「暮らしの基本に“敬神崇祖”」を本気で活かし合って取り次いでいただくべく、「崇祖」と「敬神」の推進を二回に分けて解説しました。

 当初は、この2回をもってちょうど一年の区切りにする予定でしたが、予期せぬ「西日本豪雨災害」を受けて、急きょ「わたがし作戦 夏」を紹介いたしました。非常事態でしたから、結果的に9月末までの「PDP(ピクルス デリバリー プロジェクト)」になり、「道ごころ」の内容を一部訂正する必要が生じたことを、この場を借りてお詫(わ)び申し上げます。本誌先月号で報道されましたように、8月末で終了する予定であった「PDP」は、水害だけでなくアルミニウム工場の大爆発により被害が甚大化した総社市下原(しもばら)地区の方々と、特別なケア(配慮)を必要とする家族が避難した「まきび荘」への家事支援を含む活動に広がり、当初からの岡田小学校・二万(にま)小学校・薗(その)小学校とともに、被災者が最も必要とする「奉仕の誠」が、まさに大きな「わたがし」のように膨らんだことを心から有り難く思っています。

 「何せ教主として初めてなもので…」という“言い訳”が通用しなくなった2年目も2カ月目を迎え、年末までは「新春特別御祈念」(元日午前零時から斎行される「歳旦祭」においてつとめる教主御祈念)の染筆を中心とした、一層祈りに徹する毎日が続きます。いよいよ心して神命を果たしてまいりますので、お道づれ各位には、お一人おひとりが黒住教信仰の喜びと幸せを実感しながら「道の誠」を活かし合って取り次いで下さいますよう、あらためてお願いいたします。